アンテナ(第1回) 「地方創生を見据えた最先端駐車場シェアサービス」

アンテナ(第1回)
「地方創生を見据えた
     最先端駐車場シェアサービス」
         一般社団法人クリエイティブシティラボ
                                                   代表理事 山崎満広

 国連が発行する「世界都市人口予測」(2018年版)によると、2050年には世界人口の約7割が都市に住むようになるといわれ、人口の過密化が世界中で課題になっています。都市の過密化は、交通の集中を招き、同時に都市部の人は限りある土地を最大限有効に活用する必要に迫られることになります。そのなかで、駐車のための空間はもっと有効に活用できる都市空間のひとつであり、これを効率的に利用することで、交通集中の解消、さらには地域商業の発展にもつなげることが可能であると考えています。そのために、近年急速に普及する駐車場シェアリングサービス(多くの記事ではこのように表現されますが、駐車スペースシェアリングサービスの方が的確に表現できるように思います)が有効活用の鍵になり、これから日本国内でも新たな業態のサービスが始まる事でしょう。
 私は、2012年よりアメリカの環境先進都市の一つであるオレゴン州ポートランド市の開発局に勤務した後、2017年に独立し世界的に有名なイノベーションデザイン会社Ziba Designにレジデンス(専門家として会社に滞在しながら、革新的なデザイン事業を進める期間限定の協力者)プログラムに招聘され複数のプロダクトやサービスデザイン事業に携わることができましたその中でも特に興味深かったのがZiba Designの社内ラボから誕生した地域密着型の駐車スペースシェアリングサービスを含む都市モビリティプラットフォーム会社Citifyd(シティファイド)の日本上陸戦略の立案です。そして現在、私を含めたチームは、Citifydの日本国内での展開に着手しました。
 本項では、Citifydを含む、現在人気のある駐車場シェアリングサービスの概要とその後の展望について紹介していきます。

・駐車場シェアリングサービス
  駐車場シェアリングサービスは、デジタルトランスフォーメーションの進展によって普及するシェアリングエコノミーのひとつで、従来の駐車場施設だけでなく、これまで活用されていなかった住宅や事業所などの空いている駐車スペースを、オンラインプラットフォーム(スマホアプリ)を通して利用できるようにするサービスです。駐車場提供者は利用可能な時間帯と料金を指定して情報を公開し、ドライバーはアプリ上で駐車場を探して予約・決済します。代表的なサービスとしてakippa(akippa株式会社)やnokisaki Parking(軒先株式会社)が注目を集め、大手ではタイムズのB(旧B-Times、パーク24)やtopp(i! 三井のリパーク)、BLUU SmartParking(ソフトバンク)などが参入しています。駐車場シェアリングサービスは、ドライバー、駐車スペース提供者、そして都市に、それぞれ以下のようなメリットをもたらします。

① ドライバーは、アプリ上で目的地周辺の駐車スペースを検索し、事前に予約することで、空いている駐車場を探すための時間をかける必要がなくなり混雑時でも確実に駐車できるようになります。また、駐車スペースの選択肢が増えるため、立地や料金などの希望条件により近いスペースを利用できるようになります。特に都市部では、駐車場探しにかかる移動の占める割合が大きいと言われており、ガソリン代の節約も期待されます。
② 駐車スペース提供者は、稼働率・収益率の上昇や土地の有効活用が可能になります。シェアリングサービスでは、利用可能な時間帯と料金を設定できるため、一定の規模のある駐車場やコインパーキングなどを運営する従来の駐車場事業者だけでなく、従業員向けの駐車場を備える事業所や自宅の駐車スペースが余っている個人なども、駐車スペースを提供できるようになります。従来の大規模な駐車施設を運営する事業者にとっては、駐車施設の情報が集まるアプリを利用することで、ドライバーの認知度と稼働率の向上が期待でき、新規に駐車スペースを提供する事業者や個人にとっては土地の有効活用につながります。また、従来のようないつでも同じ料金体系から、ホテルや航空券のように時間帯や時期によって料金設定を変動させることができるようになるため、混雑時は支払い意思額の 高いドライバーにスペースを提供したり、閑散期に料金を抑えて需要を喚起したりといった稼働率・収益性を高める柔軟な運営が可能になります。
③ 都市は、自動車の集中による交通渋滞や事故、騒音、排気ガスなどの問題を抱え、駐車場は急激な需要の変化への対応や、事業者が異なる駐車場の一括管理ができない問題を抱えています。駐車場シェアリングサービスの展開により、前述のとおり駐車スペースを探して街なかを走る自動車が減少するだけでなく、地域の駐車スペースを一括管理して、急激な自動車交通の集中に対応できるようになります。例えば、休日に多くの人が集まる商業施設やソーシャルメディア等で急速に注目度が高まったスポットの周辺、集客力のあるイベントの開催時などは、激しい交通渋滞が発生します。これまでは、大規模な駐車施設を整備して収容力を高めることで対応してきましたが、そのやり方では閑散期には稼働率が低下したり、整備に時間をかけているうちに需要が減少したりといったことが起こり、収益が上がらないことが多々あります。駐車場シェアリングサービスによって、ドライバーと地域で余っていた自宅や事業所の駐車スペースがマッチングできるようになると、既存の設備を増強しなくても需要に柔軟に対応できるようになり、交通が分散して渋滞を緩和することができます。日本では、欧州のように行政が中心部と周縁部で差をつけた駐車料金を設定するといった政策ができませんが、共通のプラットフォームに大小さまざまな駐車スペースの情報が集まることで、行政の介入がなくても地域の駐車スペースを一括管理できるようになり、地域全体で目的地への近さや駐車のしやすさによって料金のバランスをとり、空きスペースに適切に自動車を誘導できるようになります。

・パーキングシェアアプリの先進事例
 現在、多くの会社がプラットフォームを活用した駐車場サービスのデジタルトランスフォーメーションを進めています。特に下記の5社はここ最近のトップランナーと言えるでしょう。・都市モビリティのための新たなプラットフォーム『Citifyd』


Citifydは、米ポートランドのZIBA Design社が開発し特許をもつ、都市モビリティのための新たなプラットフォームで、現在私(山崎)も関わる日本法人がライセンス認証を取得し、沖縄本島にて実証実験に取り組んでいます。Citifydも駐車場シェアリングサービスを提供しますが、これは上述のような日本の従来の駐車場シェアリングサービスとは大きく異なる特徴を備えています。従来の駐車場シェアリングサービスは、ドライバーと駐車スペースのマッチングを目的として設計され、結果として都市における駐車場に関する課題の解決に結びついていますが、Citifydは、はじめからドライバーと駐車スペースに地域ビジネスを加えた3者を結ぶプラットフォームとして設計され、駐車場に関する課題の解決と同時に地域ビジネスの活性化を図ります。

                                                 【従来の駐車場シェアリングサービス
 
 Citifydの主な特徴として、駐車料金の割引システムによる地域ビジネスとの連携、チケット発行機能によるイベントや他の交通モードとの連動、スマートカメラやセンサーを用いた駐車スペースに関するデータの蓄積の3点が挙げられます。

                                                        【Citifydのサービスのモデル】
① Citifydは、駐車場の検索予約決済といった基本的な駐車場シェアリングサービスの機能に加えて地域ビジネス(飲食店や小売店など)を利用することでデポジットを獲得できる機能を備えています。例えば、Citifydで1000円の駐車スペースを予約しクレジット決済したドライバーが、カフェでコーヒーを購入し100円の割引を受け、更に近隣の雑貨店で買い物をして200円分の割引を受けると、結果的に700円で駐車場を利用できます。割引分はカフェと雑貨店がそれぞれ負担し700円はドライバーのCitifydアプリ上で精算されることになります割引の仕組み自体は、商業施設で買い物に応じて駐車料金が無料になる駐車券をイメージするとわかりやすいと思います。街なかの駐車場、お店、ドライバーをつなぐプラットフォームとして機能することで、地域商業の活性化を図ります。
 
② Citifydは、駐車料金の決済だけでなく、イベントのチケットや他の交通機関のパスなども発券・決済できる機能を備えています。特定の日に開催されるイベントのチケットと、そこに向かう際に利用する駐車スペースをCitifydで予約し、管理できるようになります。また、中心市街地の周縁部に自動車を駐車し、そこから公共交通機関を利用するといった利用も、ひとつのアプリ上で発券が可能になります。複数のアプリをインストールし、アカウントを作り、使うたびに起動をする手間はなくなります。

                         【チケット・パス発券モジュール】
  ※Citifydアプリ上での、観戦チケットの購入・スタジアム近くの駐車場予約・駐車場認証コード表示のイメージ
③ Citifydは、単なる駐車場シェアリングサービスとして駐車場情報をウェブ上に公開するだけでなく、特に複数の駐車マスのある駐車場の提供者に対して、料金や稼働率などの情報をリアルタイムで一括管理できるウェブプラットフォームと、それと連動して利用者の入出場と車両のナンバー・車種・車体色を検知・管理できるスマートビジョンシステムやセンサー、ビーコン等を提供します。これによって、利用状況や駐車場内での車両の動向といったデータを蓄積できるほか、一時利用と定期利用の区別や、利用可能な駐車マスまでの誘導などを可能にします。また、各顧客のクレジットカード決済額に比例してカード会社への手数料も下がる事により、駐車場事業者の負担を軽減する事ができます。更に、前述の連携した地域ビジネスや、駐車場で蓄積したデータの利活用によって、顧客の動向パターンや洞察を理解する事ができ、金額の最適化や混雑の軽減によって、これまでになかった収益をも賄うモデルとなっています。更に、広域に拡散した駐車場を持つ事業者は、駐車場のネットワーク化を図れるのも大きな利点と言えるでしょう。

                                    【駐車スペース管理用プラットフォーム】
           ※スマートフォン・パソコン上での、駐車台数と空き駐車マスの数、稼働率などの表示イメージ。
                 【利用者管理用スマートビーコン】
   ※スマートフォンで予約済みユーザーを認証してゲートを開閉するBluetooth対応ビーコンと、設置イメージ。

                            【出入場・収容量検知システム】

                   ※ゲートがなくても入出場や駐車台数を認識して管理するスマートカメラと、識別のイメージ。

・Citifydの今後の展開について
 Citifydでは、日本国内での本格展開に向けてこれから提携先を広く募集していきます。Citifydの活用は、土地を有効活用し、駐車場の収益率・稼働率を高めるだけでなく、地域の活性化や自動車交通の課題解決に関わる事につながります。ご興味のある方はcitifydjapan@gmail.comまでご連絡下さい。

・先行する米国における、Citifydの主要パートナー

 ・ホームページ https://citifyd.com/park/
 ・主要パートナー
 以上、特に欧米で人気を誇る駐車場シェアリングサービスを紹介させていただきました。
 日本は世界のなかでもキャッシュレス化が大幅に遅れていますが10月の消費税率の上昇に合わせて、日本でも経済産業省を中心に本腰を入れて取り組んでいます。また、急速な少子高齢化と過疎化による地方都市の衰退も注目されて久しく、近年は中心市街地の活性化と公共交通機関の維持は大きな課題になっています。駐車場サービスのデジタルトランスフォーメーションを進めることは、決済をキャッシュレス化するのと同時に、自家用車と公共交通機関の連携を加速し、地域の商業やイベントを活性化させ、さらには駐車場や車道に多くを奪われている都市空間を商業や歩行者やもっと自由な空間に再配分します。これからの日本国内の駐車場サービスの進化に期待しております。

以上