講演会レポート 四条通歩道拡幅事業について ~人と公共交通優先の歩いて楽しい四条通~
一般社団法人全日本駐車協会
平成27年10月15日(木)に開催した平成27年秋季駐車場研修会において、京都市都市計画局歩くまち京都推進室企画課長の福田様より、ご講演いただいた内容を纏めました。
1.「歩くまち・京都」の実現に向けた取組経緯
本日は、京都市が進める「歩行者優先」という全国でも類を見ない取組のひとつである四条通歩道拡幅事業について、それに至る経緯並びに内容についてお話させていただく。京都という町は古く、また戦火を殆ど受けなかったことから、文化遺産・史跡等が市内中に多く散らばっており、道も狭いという他の都市とは異なる特徴を持っている。またクルマは便利ではあるものの、通過交通も含め渋滞を引き起こしたり、環境問題も生じていることから、行政としては公共交通やパークアンドライド制度の利用促進を図ってきた。また都市の規模からみても、旅行者の方々には車での移動ではなく、歩いて見て回ってもらいたいと考えており「歩くまち・京都」というメッセージを掲げている。これの実現へ向けて、平成22年1月にそれぞれ「歩くまち・京都」憲章を制定するとともに、「歩くまち・京都」総合交通戦略を策定して、88種類の事業を推進している。詳細はHPに掲載しているので、ご興味のある方はご覧いただきたいが、「四条通歩道拡幅事業」はその中でも代表的な取組として位置付けている。
2.四条通の状況
京都で繁華街といえば、古くから住む市民は皆「四条通」と答えるほどで、まちを代表する繁華街である。公共交通も非常に充実しており、鉄道は民鉄系2社(阪急、京阪)及び市営地下鉄が入り、バスに至ってはこの通りを一日あたりおよそ1,600本運行されている。繁華街であることから、人通りもクルマの通行も非常に多い。
しかし片側2車線のうち歩道側(第1車線)の車線は店舗等への納品車やタクシーなどが駐停車し、直交する一方通行の生活道路(細街路)へ左折しようとするクルマもあり、ほとんどクルマが流れない状況であった。その為事実上中央側車線(第2車線)に通行が集中し、通行量はおよそ8:2の比率となっていた。一方、歩道に関しては片側3.5mの幅であり、両側で7mあるが、休日の歩行者通行量は42,000人、平日でも30,000人となっている。これに加えて、16ケ所に分散し、一日あたりおよそ1,600本が発着するバス停にバス待ちの方があふれかえっている実態があった。これを国土交通省が実施している道路交通センサスの値を利用して数値化すると、ピーク時に上下4車線の車道部分の幅15mを2,200人/時間が通行する一方、幅7mの歩道部分を7,000人/時間が通行するという、非常にアンバランスな現象が生じていた。
3.整備内容
このような状況では、四条通へ行きたくないという人が増えてしまい、まちの活性化が図れないこととなる。京都市が考える活性化とは、都心部を人が歩き、それが消費活動に繋がっていくという流れである。郊外が発達しているといっても中心部に元気がなければ、まちとして活性化しているとはいえない。そのような考えから、車道を減らして歩道を拡幅することで歩行空間を確保し、バス待ち客との交錯を無くす。また公共交通の利便性向上の為に、歩道から張り出したバス停(テラス型バス停)を整備する措置を取った。バス停は車道から少し引いた場所につくり乗降時に後ろのクルマを通すようにするケースが多いが、これはクルマ優先の考え方といえる。京都市では歩行者と公共交通優先で後ろのクルマはバス利用客の乗降時に追い抜くことはできないが、テラス型バス停にすることで歩道部分でのバス待ち客と歩行者の交錯をさけるようにした。併せて、従来16ケ所に分散し旅行客などには場所が判りにくかったバス停を4ケ所に集約することで、公共交通利用促進も図っていこうと考えた。
人口100万人超の都市のメインストリートで人と公共交通を優先して車道を減らす試みは全国初であり、各地から注目を浴びる状況となっている。事業の実施においては、地元住民、商店街、バス事業者、物流・タクシー事業者等の関係者、更には交通管理者である警察との協議が困難を極めた。平成17年頃に地元商店街から「狭い歩道問題を解決してほしい」という要望を受けたのが事業の端緒であったが、昨年11月に着工するまで関係者との協議に約8年を要した。ここまで漕ぎつけることができたのは、「まちに人が集まってほしい」、「まちを通過するだけでなく、消費を喚起し市内の事業者が潤う場所にしたい」、「大阪、神戸等との都市間競争に勝ち残りたい」という行政の強い思いがある。
具体的な整備内容を説明すると、
①歩道の拡幅
②沿道アクセススペース(停車スペース)の設置
③バス停の集約とテラス型バス停の設置
の3点である。
①歩道の拡幅と③バス停の集約とテラス型バス停の設置に関しては既にご説明したので、②沿道アクセススペースの設置についてご説明すると、沿道15ケ所に計32台分のスペースを決めて、人の乗降や短時間での荷物の積卸を出来るようにしている。併せて客待ちが可能なタクシー乗り場をデパート等の大規模商業施設前に設置している。これらの施策に関しては現実に様々な課題が出て来ており、それぞれ対処しているが具体的内容は後程説明したい。尚、工事は、現在9割以上進んでおり、10月末に完成する見込みである。また現地を見て頂くと判るが、歩道のアーケードが従来のまま拡幅部分まで拡がっていない。これは所有者が地元商店街であることや、改修した場合、非常に多額の経費を要することによる。
4.発生したトラブルと対処
本施策は理想を高く掲げているものの、実施に当たっては様々なトラブルが生じた。一番の懸念意見は、車線数が半減しバス停が道路へ張り出すのであれば、渋滞がより激しくなるのではないかというものであった。これについては事前にシミュレーションを実施しており、従来から渋滞は発生していたものの、本施策を実施しても大きく悪化はしないという結果を得ていた。しかしながら実際には激しい渋滞が発生してしまった。顕著な例は3月末から4月初めにかけての春の桜のシーズンと4ケ所のテラス型バス停設置工事が重なった際に発生した。
シミュレーションにおいては、バスの所要運行時間を判断基準としていたが、当該期間においては、通常時は20分程度であったものが50分になるといった状況が発生し、各方面から大変な批判を受けることとなった。原因を分析すると、第一に工事等の事情を知らない他府県ナンバーの車両が多く流入していたこと、第二にバス利用者の増加で乗降に時間を要するようになったことが挙げられる。京都では降車時に料金を支払う後払方式をとっているが、外国人観光客の増加もあり、両替したり一日乗車券を購入されるとともに、降車時に運転手に質問をされるケースも多くみられる。その結果として停車時間が長い場合は3分を超えるような事態となってしまった。第三に工事中で左折専用レーンが整備できていなかった為、横断歩道で歩行者と交錯するタイミングでは四条通のクルマが動かないといった事態が生じた。これら三つの要素が相俟って、大渋滞が起きてしまった訳である。
これが現在では、特に混雑する週末の夕刻でも従来の2~3分遅れのレベルに納まり、それ以外の時間帯では皆さんの認知も進み、ほぼ昨年と同様状況にある。渋滞回避の対応策としては、第一に通過交通を削減するための迂回誘導看板の設置(約100ケ所)と道路交通情報や宿泊施設(約200ケ所)を通じた迂回誘導案内の徹底を行った。第二にバスの停車時間を短縮するべく、降車後にバス停で料金支払や両替を行ってもらうようにした。これも全国では例のない珍しい取組であった。これらの施策並びに工事の進捗により、先日のシルバーウィークでは大きな混乱は生じていない。工事期間中の市バス運行状況のグラフを見て頂くと、先程の桜のシーズンは非常に時間が掛かっているが、その後は特殊事情を除けば概ね1年前と差がない。
米国の「トラベル+レジャー」誌(100万部発行の月刊誌)で、昨年と今年2年連続、京都が「訪問したいまち」1位となった。これを反映して海外からの観光客も大きく増える状況下、このような結果にたどり着けたことで安堵しているところである。とはいえ、これから一番混雑する秋の紅葉シーズンへの対策を「パークアンドライド」への誘導やサービスエリアでの広報等を含めてさらに対策を強化していく予定である。引き続き駐車場経営者の方々とも共存共栄を心掛け、協力しながら問題解決へ取り組んでいきたい。最後になるが、歩道拡幅の効果として四条通では従来は見られなかった小さなお子さんを連れた家族や、ベビーカーを押す若い母親なども見られるようになり、行政としては大変喜んでいるところである。
5.質疑応答
質問1
Q
クルマと歩行者の通行量を数値化すると、車道部分は2,200人/時、歩道部分が7,000人/時とのことであったが、整備がほぼ完了した現時点ではどのように変化しているか。
A
調査は整備完了後に改めて実施する予定であるが、全体としてクルマの通行量は若干減少してきている。
質問2
Q
整備着手に至るまで関係者と8年間の折衝を行ったとのことであるが、様々な意見があったものと推察する。駐車場経営者からの意見はどのようなものがあったか。
A
個々の内容はお話できないが、様々な方々から事業の影響を心配するご意見を頂戴した。地元住民からは、「四条通が渋滞したら抜け道として自分たちの住居前に多数のクルマが通るのではないか」、物流・タクシー業界からは、「従来通りに駐停車できるのか」、「営業に支障を来すのではないか」、また駐車場経営者からは「経営に悪影響がでるのではないか」といったご意見であった。折衝の大前提として、シミュレーションでは既に発生している四条通の渋滞を解消するのではなく、整備後も大きな影響がでることなく同程度に通れることを目指していた。それを実現するために様々な施策を行うという姿勢で臨んだ。結果として、生活圏へのクルマの進入といった苦情はあまり出ていない。
質問3
Q
新聞記事によると混雑対策としてカーナビでの対応もされたようであるが、具体的内容を教えていただきたい。また秋の観光シーズンを迎え、他府県からのクルマ流入対策はどのようなことをされるのか。
A
カーナビに関してはメーカー5社が中心となって、(一社)日本デジタル道路地図協会という団体があり、そちらが案内内容等に関する要望を受け付けている。今回は四条通の車線減少により通過交通を減らす必要があり、カーナビのルート検索で優先順位から引き下げてもらうよう依頼した。申し入れ後、半年ほどしてルート検索から優先順位を引き下げる旨の回答があった。しかしながらソフト変更によるものなので、ユーザーが新機種を購入しないと更新されない。一般にカーナビの買換は7年毎と言われているので、直ぐに効果がでるものではないが、長い目で見れば重要な取組であると考えている。他府県からの流入車両については、ソフト的な対応しかできないのが実態である。先程説明したように、サービスエリアや道の駅へのチラシ設置を近畿圏はもとより中部圏、中国圏までおこなっている。また、京都旅行を考えている段階の方々への対応として、情報誌の「るるぶ」に交通混雑でクルマでの訪問は向いていないこと、クルマを利用する場合でもパークアンドライド活用を促す等の内容で広告を掲載した。但し、これも周知されるには時間を要すると考えている。
質問4
Q
駐車場事業者との具体的な協議内容並びに、四条通に面した駐車場との折衝はどのように行われたのか、更にはパークアンドライドへの誘導について具体的な施策を教えて頂きたい。
A
駐車場事業者の方々からは、死活問題に繋がるとして非常にシビアなご意見をいただいた。また、今回の施工区間では、四条通に面しているのは全て店舗であり、駐車場はない。一方、直交する一方通行の細街路にはコインパーキングを始め多くの駐車場があるので、通り沿いに長い時間駐車している方がいれば、巡回している市の担当部局の人間が、そのような駐車場へご案内している。
質問5
Q
各方面との協議のなかで、警察とはどのような協議をしたのか。効果的なアプローチにはどのようなものがあったのか。また市内全体の交通戦略のなかで自転車問題も大きな課題であったと思う。これへの対処はどのようなことをしたのか。
A
警察との協議は、交通事故を起こさないようにしたい警察と、歩行者の歩き易さを改善したい行政との立場の違いから非常に難しいものであった。「こうしたい」といった物言いではなく、「このように対処していきたい」といったスタンスでの対話や、町の一部分の話ではなく全体も考えた施策であるといった説明を粘り強くおこなった。自転車問題は何処の街でも大きな問題であると思う。京都は学生の町でもあるので自転車数は大変多く、違法駐輪には週末も含めて徹底した撤去をおこなってきた。同時に駐輪場の設置もおこなってきたが、大きな施設は設置できないので歩道部分に「まちなか駐輪場」とよぶ、行政が占用許可を出し民間が設置する仕組みを作ってきた。また、歩行者と自転車の事故が増えて来ているので、細街路に引かれた車両区分の白線を引き直し、歩行者が歩ける幅を増やすとともに自転車にはクルマが走る部分に別の色で走行を誘導するよう新たな線を引いている。この自転車誘導レーンは各地方で色を決められるので、京都の場合は「べんがら色」(赤茶色)として町並みにマッチするよう配慮しており、クルマのスピード減少を促している。とはいえ、自転車対策は一筋縄ではいかないというのが実態である。
質問6
Q
現在進行中の施策であることは承知しているが、これまでに要した費用はどれくらいであるか。また本施策は中心市街地活性化事業として何某かの補助金を受けていると思うが、その額についても教えていただきたい。
A
総事業費は29億円(計画値)である。補助金に関しては本件が街路事業であることから、中心市街地活性化関連ではなく、通常の道路系補助金を受けている。総事業費の内訳であるが、本事業は用地買収がないので土地代はかかっていない。一方、電線などの地中化埋設物の移設に多額の費用を要している。埋設化に伴う変圧器や地下の作業空間などは従来の歩道と車道の際に設置されていたが、今回の歩道拡幅により移設しなければ新たな歩道の真ん中に突起物として残ってしまうこととなる。その為、基本的には全ての埋設物及び地上突起物の移設費用を予算に見込んだが、四条通の地下には電気以外の埋設物や阪急電車のトンネルなど様々な埋設物がある為、物理的に移設できないものも残ってしまう。従い、これらの要素を反映すると当初予算からは変動する。