英国駐車協会機関誌1月号掲載の「駐車問題・日本特集」の要旨ご紹介

「考えるための糧(ネタ)の数々」・・新たなソリューションで厳しい課題に立ち向かう日本の業界・・
“編集者Rob Coston氏によるレポート”

総務委員会・広報委員会

当協会では近年諸外国の駐車協会との交流に取り組んでおりますが、昨年秋に当協会小清水副会長宛てに英国駐車協会(British Parking Association = BPA)の機関誌編集・発行を担う出版社より、日本の駐車問題に関する特集を組むにあたり寄稿して欲しいとの依頼があり、同副会長より以下⑴~⑷の情報を編集者へ提供いたしました。

⑴米国やドイツの駐車協会とのシンポジウムで日本側の問題意識を説明した英文のプレゼン資料
⑵二年ほど前のGPALS国際アンケートに応えて当協会から送った回答状の詳細
⑶我が国社会全般と駐車場業界の今日的な立ち位置
⑷近未来に取り組むべき諸問題点の要約メモ

そうしたところ、今般BPA機関誌「Parking News 1月号」に「日本特集“Food for thought・・考えるための糧(ネタ)の数々”」が特集記事として掲載されました。

この記事は英国人編集者Mr.Costonが当方から提供した情報を基に取り纏めたものです。「英国の駐車業界が日本の駐車問題をどう評価し、自国の施策決定の糧にしようとしているのか?」といった視点で一読することにより、日本の駐車業界の行く先を改めて見直す契機となると思料されます。以下和訳をご紹介いたします。

日本特集“Food for thought・・考えるための糧(ネタ)の数々”

英国駐車協会機関紙 Parking News 1月号表紙

英国駐車協会機関紙 Parking News 1月号表紙

日本は複雑な国である。その名を聞くだけで、「サムライ」、「俳句」、「見ただけで胸がわくわくする素敵な日本料理」、それらとは対照的な「ロボット」や「小型化技術」、「最先端技術」等々、独特で多様性に富むイメージが浮かんでくる。

日本の駐車場業界も、この国特有のさまざまな問題に対峙している。山勝ちで平野部が少ないところに過密なほどの都市化が進んでいることは、駐車場用地がいかに限られているかを意味するものだ(総人口の3分の2に当たる約8,300万人が、大阪から関東地方へ海岸沿いに帯状につながる細長い平野部に密集して居住)。地震リスクがあるため、駐車場設備は災害に極めて強くなくてはならない。また、急速な高齢化により労働力不足が顕在化し、同時に顧客ニーズも多様化している。

このように日本独特の事情が多い一方で、この業界が直面している課題には英国の駐車場業界にとっても非常になじみ深いものがいくつかある。電子(キャッシュレス)決済から、ロボットや高性能センサーによる完全な自動管理・ビッグデータ活用などに至る一連のスマートテクノロジーに絡む諸課題、あるいは車両の自動駐車機能からいろいろな法規制問題に至るまで、共通点は数多い。

パーキング・ニュース誌は彼らが直面している課題と検討中の解決策について、全日本駐車協会副会長の一人、小清水琢磨氏から話を伺った。同協会が将来の課題にどのように対処しようとしているかは、英国駐車場業界の今後の発展にとっても興味深く、かつ有用な知見である。

日本特集記事 “Food for thought” の表題部分

日本特集記事 “Food for thought” の表題部分

技術の趨勢

技術の進歩は世界中至る所でみられる。だが、以下に述べる歴史的な特性もあって、日本は新技術の採用で時代をリードしているようだ。

1950年代から80年代にかけて、第二次大戦により荒廃した日本の都市構造、すなわち、建物、自動車道、高速道路が再建されていった。この時期、自動車は国家経済の急速な発展を加速させる触媒の役割を果たし、それに伴って駐車場設備に多額の投資が注入された。効率的な交通インフラにとって不可欠なものと認識されたのである。この時代はまだ人件費が安かったので情報通信技術(ITC)の活用は大したことはなかったが、都市圏の限られた土地に駐車スペースを創り出すため、第1号の機械式立体駐車場システムがこの時期に登場している。こうした設備の建設により、90年代の初めには毎年約40,000台分の駐車スペースが増加した。人口問題が浮上してきたのは90年代および2000年代初めのことである。人口高齢化に伴う労働力の減少により、技術的な革新が駐車場管理における必須の要素となった。今では誰もが知っているCCTV、管理機器の遠隔操作、満空管理センサー、および全自動料金精算機などの技術はすべて、これ以降、2010年までにかけて登場してきたものである。

2010年から今日:従来からの問題点

2010年以降、日本は古くからある問題点がより顕著となる新たな時代へと突入した。

2013年の主要国駐車協会首脳会議(GPALS)が実施した「駐車場業界動向に関する国際リサーチ」に対する全日本駐車協会の回答では、今日の日本の駐車場業界に最も大きな影響を与えている要素として以下の5項目を挙げている。

・駐車場の経営管理を進化させるための革新的な技術を採用する動き
・電子(キャッシュレス)決済の要請
・環境にやさしく持続可能な解決策の提唱
・充電設備など電気自動車対応設備拡充の必要性
・セキュリティ強化の必要性
しかしながら、問題はより深いところに潜んでいる。

日本の人口は2008年に1億2800万人のピークを迎えたが、そこからほとんど減っていない。これは日本が平均寿命81歳という世界有数の長寿国であるためで、少子高齢化が進行する中で何年間も総人口が僅かしか減らぬということは、中身の高齢者比率の急増を意味している。

国土が山勝ちで居住可能面積が限られる中での行き過ぎた都市化もまた問題だ。さらに、国土交通省の「多様なネットワークを持つコンパクトシティ」政策がその問題に拍車をかけている。

新たな問題もある。これは欧州にも広がりつつあるものだが、それ以前の世代に比べ現代の若者世代の車離れが顕在化しつつあるという点だ。

総じて、高齢化、意識変化、「歩いて動ける」地域社会の推進といった問題は、日本がすでに「クルマ社会のピーク(Peak Car)」を過ぎていて、道路を走る自動車の数が徐々に減少していくことを示唆している。駐車場業界にしてみれば、間違いなく大問題だ。

さらに、欧州でも増えつつある問題とナイジェル・ウィリアムズが本紙の別稿で指摘した駐車場の供給過剰問題がある。

日本においてこの問題は、自動車数の緩やかな減少と、1980年代以降駐車場ニーズが特に重視されたことがもたらした結果である。結果的に業界が駐車場整備を一生懸命にやったことが裏目に出たとも言える。「やや異端な種類のスペース供給」、例えば主要都市中心部で時に見られる無人駐車場の無秩序な増殖などは、過剰供給の一因とみられ勝ちだ。なぜなら、有用な社会資本である駐車場の不足を解消するとか、駐め易い簡便な路外駐車場確保によりドライバーの利便性を高め、併せて円滑な都市交通を実現するなど、崇高な理念のもとに駐車場インフラの拡充に努めている良心的な事業者なら有難い存在だが、それらの理念とは関係なく空地の地主や賃借人が投機的に地価上昇を待つ間、あるいは建物建設の好機を待つ間、わずかでも日銭を稼ごうとコインパークを運営しているケースも多く、これが時として景観面のマイナスのみならず、スペースの過剰供給を生み、地域の駐車料金体系を乱す因になるとも指摘されている。

その一方で、渋滞する中心市街地への車両乗り入れ制限や、持続可能で環境にやさしい駐車場の建設を求める声が高まることなどにより、従来型の駐車場経営が徐々に難しくなっていることも否定できない。

最後に、日本が自然災害の多い国であることに言及しておこう。阪神淡路・東日本大震災など近年の歴史に照らして当然だが、これこそ人々が最も気にかけている点である。駐車場業者は常に、災害時の避難対策や、エネルギー供給、給水・公衆衛生などライフラインサービスの迅速な復旧を考慮しておかなければならないのだ。

新たなソリューション

全日本駐車協会はこれらの問題を解決するために4つの長期的アプローチを押し進め、経営の安全確保のために駐車場業界はいくつかの重要な適応策をとるべきだ、と提言している。

全日本駐車教会について

高齢化社会への備え

とりわけ難しいのが高齢化問題である。高齢化による労働力不足で、駐車場業者は自動化という解決策を余儀なくされているが、高齢者の多くは新しい技術や機器は扱いが面倒と不安を覚え、むしろ温かみのある有人サービスを好む傾向があるようだ。

この問題は対応の難しいものだが、とりわけ注力すべきは身体の不自由な方や弱者の増加に対応できる設備やシステムを確保することである。そこで、協会は駐車場バリアフリー構想を掲げ、駐車場へのスムーズな出入りや、快適且つ安全に乗り降りできるゆったりとした車室の確保を奨励し、また同じ発想で駐車場内に遠くからでも目立つ読み易い標識や看板を設置し、操作が易しい事前精算機などの設置を推奨している。

IT社会への備え

キャッシュレスな電子決済、車番認識カメラシステム、およびCCTVはどれも、ますます普及しつつある。将来は欧州と同じく、異なる機器メーカーの製品を自由に混在使用できるように駐車場管理機器に互換性を持たせ、且つ機器類から生成される電子データ形式の統一化(現状は互換性のない、メーカーごとに異なった電子データ形式ゆえコンピュータ処理に不便)を図る必要がある。

また、駐車場の所在地、料金体系、および満空情報をスマホやパソコンで顧客に提供するオンラインガイダンスシステムの導入も推し進められている。この点に関しては東京が一歩先んじているものの、他の大都市もすぐ後ろを追っている。

日本の駐車業界の現状

低炭素社会への参与

GPALS調査報告によると、駐車場を進化させるための技術ソリューションのうち、もっとも普及している3つは、実をいうと環境問題に関わりがある。前述の路上・路外駐車場案内システムはその一例だ。ドライバーが駐車場をいち早く見つけられることで、うろつき交通を減らし炭素排出量が削減できるという仕組みである。残り2つの普及しているソリューションは、省エネ型照明と、EVやプラグインハイブリッド車用の充電ステーションである。

常識を覆す駐車場とは

とはいえ、もっとも大きな変革を打ち出しているのは4番目のアプローチであり、これは、大変に難しい問題と対峙しているにもかかわらず、全日本駐車協会が野心的な長期目標を掲げていることの表れである。

駐車場業務はサービス業であるという認識

その一部をなすのがITS(高度道路交通システム)との統合推進である。これは電子決済や駐車場内での各種自動制御、および、より広範な交通ネットワークへの機能統合を通じたスムーズなドライビング体験の創造を指している。たとえば携帯端末を通じ、利用者にリアルタイムで駐車場案内や満空情報を提供することなどが具体例である。

この統合という課題は、未来の駐車場はどうあるべきかという全日本駐車協会のビジョンにおいても引き継がれている。人々の運転機会が減り、より環境にやさしく、より持続可能な都市のかたちが求められ、また、災害に対する安全性が必要とされているとき、そして、利用可能な土地は寸土でも有効利用されなければならない宿命の下で、どうしたら駐車場は必要なものであり続けられるのか?最早単にドライバーに駐車するスペースを貸すだけの駐車場では、これらすべての問題を解決する答えにはならない。それに代わって「未来型の駐車場」は、多面的な役割を果たし、ユーザーや地域社会に対し、総じて次のような多機能サービスを提供するものでなければならないのである。

1.コミュニケーションセンターの役割:
ITなど先端技術を駆使したいわゆるスマートパーキング、EV/HBV /燃料電池車への充電・水素充填ステーション、四輪車/バイクレンタル、および洗車など複合的サービスの提供

2.「交通ジャンクション」の役割:
パーク&ライド或いはカーシェアリング基地として、またコミュニティバスのバス停など、個人や地域社会間の交通結節点となる場所。

3.防災シェルターの役割:
災害時の避難場所。救急活動や災害復興対策部隊のための防災物流基地。

日本の駐車場業界がこれらの着想をうまく実現していけるかどうかはまだわからない。しかし、英国でも高齢化が進み、同様の技術的難題にまさに取り組んでいるなか、日本の駐車業界の在り方は注視に値する。