駐車場整備の変遷 (第7回)「さまざまなタイプの駐車場の登場と普及」

駐車場整備の変遷 (第7回)

「さまざまなタイプの駐車場の登場と普及」

広報委員会

これまで戦前の黎明期から戦後復興並びに高度経済成長とともに生じたモータリゼーション期をはじめ、各時代における様々な駐車場整備を振り返ってきましたが、昭和半ばから平成にかけて駐車場の形態は多様化し、新たなビジネスモデルも誕生しています。そこで今回は視点を変えて機械式駐車場・自走式駐車場(プレハブ式)・コインパーキングについて友好団体へインタビューさせて頂き、それぞれの駐車場の登場と普及・エピソードなどを時代背景も交えながらお話しいただきました。

今回の掲載にご協力いただきました、(公社)立体駐車場工業会の金栗事務局長様、成松企画部長様、跡部調査担当部長様、(一社)日本自走式駐車場工業会の飯島理事長様、高津専務理事様、若山事務局長様、(一社)日本パーキングビジネス協会の森井理事長様、渡辺顧問様、山村事務局長様、青木様に誌上をお借りして厚く御礼申し上げます。

機械式駐車場の登場と普及

公益社団法人立体駐車場工業会

機械式駐車場の登場と工業会設立

我が国における機械式駐車場の歴史は昭和4年に始まります。大阪在住の角利吉という人が垂直循環方式の原型ともいえる駐車装置を発明して特許を出願しています。

当時の国内自動車公益社団法人立体駐車場工業会機械式駐車場の登場と普及 保有台数は約97,000台であり、あまりの時期尚早で実現には至りませんでしたが、昭和初期に日本人による機械式駐車装置のアイディアがあったことは大きな驚きといえます。(編集註:同年に我が国初の駐車場ビルである丸ノ内ガラーヂが開業)機械式駐車場が急速に普及し始めたのは、各地で渋滞問題等が発生していた昭和30年代半ばからです。昭和32年には駐車場法が制定されており、大手造船重機メーカーに駐車場への取り組みに対する機運が芽生え、昭和33年頃から34年頃にかけて具体的に海外視察や研究に着手するようになり、昭和35年には小規模ながら我が国初の機械式である二段式駐車設備が東京赤坂に設置されました。

角利吉の特許第84880号

角利吉の特許第84880号

こうした中、エポックメイキングとなったのは昭和37年3月、東京日本橋の高島屋に設置された呉造船所(その後合併により現IHI)製の垂直循環方式の機械式駐車場です。「スカイパーキング」と名付けられ、東龍太郎東京都知事を迎え、完成セレモニーが警視庁音楽隊のパレード等により華やかに行われました。当時は既に交通渋滞等が発生していましたが、百貨店が目新しいものを競って導入することにより差別化を図っていた時代背景があり、どちらかといえば混雑対策等というよりPRが主たる設置目的であったといわれています。また翌昭和38年には研究を行なっていたメーカー各社からも製品が発表され、その後さまざまな形式の機械式駐車場が作られていくことになります。

日本初の立体駐車場

日本初の立体駐車場

立体駐車場工業会は、このような流れの中で昭和37年1月に創立、昭和40年には社団法人としての認可を受けて現在に至っており、昨年は50周年を迎えることが出来ました。

機械式駐車場の技術革新

現在は、垂直循環方式、エレベータ方式、平面往復方式、水平循環方式、二段・多段方式等、 様々な種類の機械式駐車装置が販売されていますが、日本固有のものとして進歩してきたものが垂直循環方式です。構造がシンプルであり、昭和から平成の時代にかけて出荷台数を伸ばしていきました。エレベータ方式や平面往復方式等は、構造が複雑になることから部品数が多くコストが嵩み、またメンテナンスも手間がかかります。必要スペースも垂直循環方式は2台分で済みますがエレベータ方式は3台分になります。これらのメリットにより現在でも一番多く稼働している機械式駐車場は垂直循環方式ですが、出荷台数では10数年前からはその地位をエレベータ方式に譲っています。その理由は制御機器の進歩です。従来はリレー式であったものが、コンピュータの普及により部品が基盤化されるとともにプログラムによる制御が可能になったこと、またインバータの導入により動きがスムーズになり騒音が低く抑えられるようになってきたことが挙げられます。垂直循環方式は大きなゴンドラを回すので作動時にガチャガチャと音を発し出し入れにも時間を要しますが、エレベータ方式は静かにかつ短時間で車の出し入れが可能になります。これらの開発は中小メーカーが先行し地方都市から導入が進みましたが、その後大手メーカーも加わったことにより技術革新が更に進みエレベータ方式が主流になりました。

垂直循環式 見取り図

垂直循環式 見取り図

エレベータ方式 見取り図

エレベータ方式 見取り図

現状の課題とその対応

このように普及が進んできた機械式駐車場ですが、時を重ねることにより対処すべき問題も出て来ています。先ずは設置後数十年経過した駐車装置に関する問題です。これらが設置された時代は5ナンバー車中心であり、昨今の車両大型化による3ナンバー車の増加(1%⇒10%)、車高の高いハイルーフ車やワンボックス車、RV車の増加(8%⇒35%)により従来の広さでは車室内に車が収容できないという問題です。メーカーとしてはこの課題に対して内部の改造によりパレットの拡大や収容台数を減らしてハイルーフ車を混合して収容できるミックス型にする等の対応を提案しています。保守・保全では、納入した駐車装置は幾ら古くなっても修理や 保守管理に対応していますが、装置部品の製造中止などにより代替品の採用などの措置を取らざるを得ず、どうしてもメンテナンス費用が割高になってしまいます。改修や修繕を行い引き続き既存の駐車装置を使用するか否かについては、費用対効果と事業性を踏まえて所有者に判断していただかざるを得ないと考えています。

自動二輪車対応については、平成19年度と平成20年度に自動二輪車を固定する実験を行い、国土交通省より車室内に自動二輪車を収容するための認定を受けて製品化しています。しかしながら自動二輪車は四輪車と比べて料金を支払って駐車する習慣が希薄であり、また実際に機械式駐車場に駐車するには手間がかかるので余り普及が進んでいません。自動二輪車に対する違反取締まりを四輪車並みに厳しくするなど、利用者の意識を変えるような措置が取られない限り、この状況は変わらないと思います。

また近年特に力を入れていることは安全性向上に関する取組です。残念ながらこの10年で32件の事故が発生し10数人の方が亡くなっています。その原因を国とも協議しながら分析して、「機械式立体駐車場の安全対策に関するガイドライン」が制定され、事故防止には「製造者」「設置者」「管理者」「利用者」などの関係主体がそれぞれの立場で実施できる安全対策の方法、駐車装置の持つリスク等について適切に情報を共有できる仕組み作りが必要とされています。また、平成27年1月の省令改正により「製造者」に対して機械式駐車装置の認証制度が施行され、「製造者」は国の定めた安全性を担保した認証取得装置しか販売できなくなっていますが、そうしたより高い安全性を求めた活動に加え、駐車装置のJIS規格化や、安全性向上に向けた安全講習会を開催しています。安全性向上に向けた改修提案等も引き続き行っていますので、駐車協会会員の方々にもご理解ご協力をいただければ幸甚です。

将来に向けた動きと課題

我が国も少子高齢化社会に入り国内での成長が難しくなっていくことから、将来に向けた取組の1つとして、国土交通省と連携して海外展開を進めています。日本の機械式駐車設備の技術は欧米の技術を凌駕していることは間違いないですが、だからといってその普及が簡単な訳ではありません。例えばサウジアラビアでは、そもそも車の駐車に料金を払うという習慣がなく、駐車場業が成り立たない等、その国の発展状況や習慣により駐車場を取り巻く環境が大きく異なっています。それらの問題を考慮し、まずは地理的にも近く急速なモータリゼーションの進展により渋滞問題などが深刻化している東南アジアの国々に対し、積極的な活動を開始しております。これら国民のニーズに対しインフラ整備が追いついていない国に対して、メーカーが関与しにくい基本計画の段階でインフラ整備の一環としてPR活動を進め、各国各都市の都市開発、道路計画の中に駐車場も組み入れてもらうための活動が当工業会にとって重要なことであると考えています。

またIoT等の技術革新への対応は既に始まっています。保守点検等は遠隔地からネットを通じて実施しており、利用者は稼働状況を見ながらネットを通じて駐車予約をすることも可能になっています。安全性向上については、「現状の課題とその対応」で述べたことに加え、入庫した自動車の中に居る人を如何にして検知するかにあります。自動車から降車した装置内の人を検知するために駐車設備側で設置しているパッシブセンサーなどの感知器と自動車が持つ内部情報をコラボさせて、駐車装置作動時に確実な無人化が図れるようにすることが出来ないか研究を進めています。こうしたことを踏まえ今後は自動車工業会などとタイアップし、自動車交通の起終点である駐車場の安全性、利便性、快適性の向上に努め、自走式駐車場に引けを取らない機械式駐車場の実現に努めていくことが当工業会の使命であると考えています。

自走式駐車場の登場と普及

一般社団法人日本自走式駐車場工業会

自走式駐車場の登場と工業会設立の背景

最初に少々堅い話になりますが、建築基準法による建築物の定義は、“土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの”とされています。ところがこれを掻い潜るかたちでバブル期以前から遊技場(パチンコ店)を中心に「載置式(さいちしき)」と呼ばれる簡易な駐車場が多く作られる状況がありました。この駐車場は、基礎がなく地面に置くかたちであり“土地に定着”されておらず、2階部分へ向かうスロープや床面もグレーチングと呼ばれる鋼材を格子状に組んだ蓋の材料を使用して“屋根もない”ので、建築物とは見做されないということで、確認申請もされずに建設されたところも多くありました。しかしながら法律上の規制を受けない為、ある日突然工事が始まり100台単位の駐車設備が出来てしまうので、周辺住民から2階建ての駐車場による圧迫感や騒音といった環境面やその安全性について、不安とともに行政へ多数のクレームが寄せられ、訴訟も提起される事態となりました。このような流れのなかで建設省(現国土交通省)より「自走式駐車場は基礎を作り建築物として建築基準法に基づく確認を受けて建設するように」という要請が出されました。当工業会は建築物としての立体駐車場を作るメーカー・団体として平成2年に設立され、以後、同省と協調して大臣認定制度の構築を推進してまいりました。

認定の経緯と特徴

こうした設立経緯はあるものの、新しい形式の駐車場なので認定を取得するまで色々な苦労もありました。この作業は建設省の外郭団体であった(財団(当時))日本建築センターと行いましたが、そもそも自動車は数十ℓの燃料を積んでいる危険物であり、それを保管する駐車設備は安全性の確保が厳しく求められていました。鉄骨造であれば火災時に強度が落ちないよう耐火被覆が求められ、防火戸の設置や固定式の消火器などの消火設備も必要とされます。これを外部への開口部を大きく設けることで内部に熱や煙などが籠らないようにすれば、これらの対策をしなくても安全性が確保できるのではないかという検証を行いました。当時はシミュレーション技術等も進んでいなかったので、実際に建築した自走式駐車場を使って燃焼実験を実施しました。その結果、安全性が確認され、耐火被覆や防火区画設置の免除、消防設備の一部免除等が認められて建築基準法第38条の規定による認定を受けることが出来ました。

燃焼実験の様子

燃焼実験の様子

日本建築センターと共同で検証作業を行なったことにより、構造や防火、避難の安全性等を含めて通常の自治体が認可する確認申請と比べ、大臣認定によるかなり専門的なチェックが行われました。そうした経緯も踏まえているので認定駐車場は、高い安全性を確保することができ阪神大震災を始めとする各種の災害においても大きな被害を受けることなく、また東日本大震災による津波にも大きな開口部による構造的特徴により波が通り抜け耐えることができ、多くの市民の方々の避難場所として利用されることにも繋がりました。

ここで認定を取得した自走式駐車場の特徴にふれておきたいと思います。先ず一般在来工法 の駐車場に比べて工期が短縮できかつコストダウンが図れるというメリットがあります。工期は規模により異なりますが、在来工法に比べて一般的には2/3程度です。梁や柱は工場で加工したものを現場で組み立てるので、現場施工よりも高い精度と品質が確保できるというメリットもあります。建築コストについても耐火被覆や防火区画の免除、消防・防災設備など設備機器も一部免除されるので安価で済むことになります。一方、防災上の観点から開口部を広く取らなければならず、雨の吹き込み対策や防音対策で壁を設置するには制約が生じたり、意匠デザインの点で変化をつけにくいという面がありますが、近年では様々な工夫を行い在来工法と遜色のない施設を開発しています。

普及と利用者ニーズへの対応

初期の自走式駐車場は、一層二段(一層二段は一階と屋上が使用できるもの)で、その後に二層三段が出来ました。この二つが主力商品でした。その後の三層四段や四層五段などと高層化や規模拡大に認定の実績を積み上げてきた結果、今では六層七段や一層が最大8,000平米のものまで実現しています。こうした規模拡大と併せて、動線計画の工夫や自動車重量の変化に応じた耐床荷重の強化、屋上緑化や壁面緑化、利用者の利便性向上や周辺への景観配慮などに継続的に取り組んできました。

自走式駐車場は近年4万台程度年間ベースで供給されていますが、商業施設や病院、市役所などでの設置が多くなっています。また供給数のトレンドを見ていくと、平成4年頃から徐々に増えて平成17~18年頃がピークになっていますが、これは病院施設の郊外への移転やバイパス沿いに大型店舗が出来始めた時期と概ね重なっています。平成17~18年頃は工場の海外進出により、郊外に大型マンションや商業施設が建設された時期でもあります。郊外では駅前であってもマンションはファミリー層が対象で充分な駐車スペ ースが必要でした。更に平成19年からは1、 2階部分に様々な業態の店舗や公共施設を併設した新たなニーズに対応した施設併用 型駐車場の供給も進めています。このような経過を経て平成27年度までに累積供給数は約175万台分に達し更なる普及に努めているところです。

自走式駐車場の型式別構成の推移

自走式駐車場の型式別構成の推移

施設併用型駐車場

施設併用型駐車場

今日的課題と将来への展望

今日的課題として先ず取り組んでいることは、防災機能の強化です。先に触れたとおり災害時に自走式駐車場が臨時の避難施設として活用された事例を踏まえ、更に利便性を高めるべく 場内に防災備蓄倉庫の設置が可能なタイプを開発しており、近々認定を取得できる予定です。来るべく地震に備えて防潮堤や津波避難タワーを作る動きがありますが、避難タワーは収容人数が数十人規模と小さく車椅子の方が避難するのも大変です。何より災害対応施設は日頃から地域の人達に認知されていなければいざという時に役に立たないという問題もあります。一方、自走式駐車場であれば普段から人々に利用され広く認知されており、スロープもあるのでいざという時に避難がスムーズに行えます。さらに今後、応急仮設的にかつ短期間の利用が可能な住宅としての活用も可能にしていければ良いと考えています。普段から利用している場所が災害時の避難施設になるということはとても大事なことです。現状国としては収益施設には補助金が出せないという制度上の事情がありますが、今後見直されていくことを期待しています。

今後は少子高齢化とそれに伴って行政が推進するコンパクトシティ施策により、街の形も大きく変わっていくことになりますが、地方であればあるほど車依存の割合が高いので、駐車場のニーズが大きく減少することはないと考えています。国土交通省では付置義務台数を一定のエリア内で集約することも進めていくようなので、そういった面からもビジネスチャンスはあると思います。但し、駐車場があることで人々の集客と回遊性を高めるようにするといった工夫や、平日と週末で使われ方の違うこと等も考慮して隙間を効率的に活用するといった街づくりや街おこしに繋がる考え方を取り入れていくことも重要だと考えています。

最後にIoTへの対応ですが、自動運転に代表される運転制御技術の進展は目覚ましいもの があり、駐車場業界にも大きな影響があることは間違いありません。現状では未だ関連する規格や法律面の整理が固まっていない状況にありますが、当協会としては広く自動車業界、行政、 関係団体等多くの関係者からなる組織で検討を進められ、その一翼を担っていければと考えています。

(本稿は、同工業会の飯島理事長様へ事務局がインタビューを行い、内容を取り纏めたものです。)

コインパーキングの登場と普及

一般社団法人日本パーキングビジネス協会

コインパーキングの登場

コインパーキングは、昭和45年に日本信号㈱が道路上のパーキングメーター(その形態から 通称"路上ネギ坊主"といわれていました)を派生させて開発した「パークロック」に始まります。同社はパーキングメーター製造に大きなシェアを持っており、これを民間駐車場においても使用することを考え乗り逃げ防止策としてロックを付けて製品化したそうです。その製品に可能性を見出したニシカワ商会という会社(現パーク24社)が代理店となり、当時普及が始まっていた機械式立体駐車場脇の少し余った土地に数台分を設置するなどの販売を行っていたようです。数十台単位で設置が始まったのは、お茶の水にある大学病院で無断駐車の解決策として無人で運営ができるコイン式機械の導入に成功したことによるといわれています。

日本では昭和40年代後半の列島改造ブームに端を発し、不動産会社による土地買い占めが行われ て土地価格が高騰しました。それを抑制する措置 として昭和48年に特別土地保有税が創設され、未利用・低利用の土地に税金が課せられるので、とりあえず税金対策のために土地を駐車場にする発想が生まれました。コインパーキングや簡易な二段式駐車場の整備等が臨時的な活用方法として脚光を浴びるようになったのはこの頃からです。その後、昭和60年のプラザ合意に端を発する「バブル」により土地価格は更に高騰しましたが、平成4年(1992年)頃になると、不動産融資総量規制等によりバブルが崩壊することになります。土地価格は「半値八掛二割引」ともいわれ、暴落するとともに地上げ途中の中途半端な面積の土地が大量に発生しました。

初期のパークロックシステム

初期のパークロックシステム

この土地の扱いに土地所有者は頭を悩ませていましたが、その頃パーク24社が、上野の昭和通りにあった「タカラホテル」跡地に日本初の24時間無人時間貸駐車場(タイムズ駐車場1号店) を開業して大成功していました。バブル崩壊後はこの事例から一斉に土地活用は「コインパーキングがいい」「空き地はコインパーキング」という雰囲気が出来てきて、事業としてのコインパーキングが急成長していきました。パーク24社の創業者である西川氏は、大変先見性のあるアイデアをお持ちの方で、かつ何年も売れない時代が続いても根気よく販売を続けてこられ ました。西川氏のたゆまぬ努力に時代の追い風も加わってコインパーキングビジネスが開花したといえます。別の見方をするとコインパーキングビジネスが発展したのはバブルと土地保有課税のお陰ともいえるでしょう。

新たなビジネスモデル

コインパーキングが成長した要因を挙げてみます。先ずは小刻みな料金設定を行ったということです。「100円パーキング」といわれたように10~15分単位で100円の料金設定をしたことは、当時の一般的な駐車場が月極め主体で時間貸でも1日単位で料金設定されていたことを考えれば全く新しいものでした。近年「シェアリング」という発想が浸透してきましたが、コインパーキングは正に「タイムシェアリング」の発想です。コインパーキングにすることにより月極と比較して収入が数倍になるようなケースも現れました。土地所有者は土地保有コストを駐車場にすることで賄えるのであれば任せたいということでコインパーキング事業者に貸しました。コインパーキングというビジネスは土地の暫定利用であり一時使用賃貸借であるので、 5年程度の期間しか契約が担保されませんが、投下資本が小さく駐車機器もリースで設置することが可能であるため参入障壁が低く沢山の事業者が参入することになりました。しかしながら一方で様々な課題も生じてきました。

各課題への対処

従来の駐車場とは異なり、24時間営業かつ無人オペレーションがコインパーキングの特徴ですが、それゆえに生じる問題もありました。先ず利用者も初めて見る機械なので使い方が判らないという問合せが沢山コールセンターに掛かって来ました。出入庫の仕方や料金は先払いなのか後払いなのかといった内容です。当時の機械は集中精算機ではなく、1台毎にコインを投入するタイプであったので、長時間利用して料金が数千円になるとコインが足りなくなるといった事態も起きました。その対策として飲料の自動販売機が設置されています。自動販売機を両替機として利用したのです。現在では笑い話になりますが、駐車料金を払う為に飲料を2本、3本買わなくてはならない人もいたようです。

また無人なので、フラップ板を乗り越えて出庫したり、フラップ板の掛る手前で駐車する “寸止め”、さらにはフラップ板が上がらないように細工をしたりと、様々な不正が発生するとともに機器が破損するといった問題も生じてきました。一方、利用される方々の不便解消や不正防止のために技術面でも様々な進歩がありました。まずは集中精算機の登場です。先程ふれ たように従来の機械は1台毎にコインを投入するしか方法がありませんでしたが、集中精算機にすることにより紙幣の利用が可能となり、領収書も発行できるようになりました。現在では 各種カードも利用できるようになっています。また監視カメラ(ITV)の進歩もありました。

近年の技術進歩はめざましく製品価格が10分の1程度まで下がるとともに、従来は判別が困難であった登録ナンバーや利用者の顔が夜間でも明確に写るようになり、事故や乗り逃げが大きく減少しました。更に初期投資がより少なくて済むフラップレスのコインパーキングも出てきています。

集中精算機

集中精算機

協会の設立と役割

コインパーキングが普及するにつれて様々な問題が生じてきたことは、先に触れたとおりですが、不正利用等に加えて放置車両や物品放置、更には駐車料金の盗難なども多発してその対応に各社が苦慮する状況が顕在化してきました。これらの問題への対処方法について各社で情報交換を始めたことが協会の始まりです。平成13年8月にコインパークビジネス協議会という名称で発足し、追って平成16年にNPO法人日本パーキングビジネス協会となり、平成27年7月に一般社団法人日本パーキングビジネス協会になりました。

発足当初に取り組んだ課題は、放置車両対策、事故情報の共有などを含む治安対策や過当競争の防止などです。事故情報の共有という点に関していえば、事故が多発するエリアで連絡網を整備したり、特定の機種で事故が発生する傾向があれば協会から製造メーカーへ防御措置を依頼することも行ってきました。何れにせよコインパーキング業界は、約15年間という短い期間の中で、技術面・運用面・利用者意識と様々な面で大きく発展してきました。

今日的課題について

ここで今日的課題として協会が行ってきた活動についてふれておきたいと思います。もともとコインパーキングは、遊休地の活用という側面をもっていたので、500平米未満で台数にすると33台程度までのものが多く、この規模は駐車場法における届出駐車場とはならずかつ建築基準法上の確認申請も不要です。従って法律上は隙間産業的な面があり、安全面の措置も各社に委ねられてきた経緯がありますが、地方の駐車場で強風により工作物が破損してそれが原因 で死亡事故が起きてしまいました。そこで協会では国土交通省からの要請を受けて、設備安全 基準のガイドラインを作成して協会の会員はこれを守るということにしました。またこの他料 金表示も利用者の誤解を招き易いものがあるということで、同様にガイドラインを定めています。業界としては、法律的な縛りがなくてもきちんと自主ルールを決めて対応していこうということで、これらの取組は会員以外の方にも喜ばれています。

またコインパーキングは、届出制ではなくかつ増減が激しい為、ビジネスとしての実態把握 が難しい側面があることから、協会では市場の実態調査も行っています。市場の全貌をつかむために会員以外の事業者やメーカーにもヒアリングして、過去3回3〜4年ごとに調査を実施していますが、直近の2015年調査では全国で65,000か所、車室数では1,180,000室の規模に達しており、引き続き年率10%程度のペースで市場が拡大していることが判っています。

コイン式駐車場の箇所数の推移(2011年~2015年4月)

コイン式駐車場の箇所数の推移(2011年~2015年4月)

コイン式駐車場の車室数の推移(2011年~2015年4月)

コイン式駐車場の車室数の推移(2011年~2015年4月)

これからを見据えた対応

我が国も少子高齢化時代に入り、従来とは異なった対応が求められるようになってきていま す。コインパーキング業界も各地域の特性や事情に合わせた活動が求められて来ています。もともとは東京を中心とする大都市で始まったビジネスですから東京で発生する問題について研究や対処していればよかったのですが、近年では各地域の特性に合わせた活動も重視して支部を作っています。例えば降雪地域では、除雪対策は事業上大きな問題であり、地方では大都市に比べて軽自動車の比率が高く車室も多く取れるため独自の工夫ができるといったことです。

今後に関しては、第一に従来から提唱している“3K2A”を徹底してきたいと考えています。3Kとは「綺麗・快適・機能的」、2Aは「安全・安心」を示しています。昨今様々な処で提唱されている東京オリンピック・パラリンピック対応やIoTの活用等、業界として対処していくべきことは沢山あります。協会としてはこれからもこの理念に基づいて取り組んでいきたいと考えています。