これからの駐車場ビジネス(第7回)
座談会「街活性化と駐車場」その2

前回は「街活性化」について、“街と車の関係”とそこから生まれる様々な駐車場施策と、コンパクトシティ富山市での取組などについて紹介いたしました。今回は後半として、“エリアマネジメントと街の活性化”について駐車場との関わりで考えるとともに、2020年に予定される東京オリンピック・パラリンピックでどのようなレガシーが作られていくのか、引き続きお話を伺います。

<出席者>
2020組織委員会 輸送局長          神田 昌幸様
(国土交通省 都市局街路交通施設課 前課長)
(富山市 元副市長)

 

東京国際フォーラム株式会社 取締役 広報部長         廣野 研一様
大丸有エリアマネジメント協会 理事
(三菱地所関西支店 前副支店長 兼 グランフロント大阪TMO 前事務局長)

 

全日本駐車協会 専務理事            黒田 和孝

以下、敬称略

エリアマネジメントにおける駐車場の役割、エリアマネジメント組織の有り方

黒田: 街づくりや街運営に関してはハード面、ソフト運用面がすごく大きな問題になってきますが、エリアマネジメントの観点から見るとどのようなことがいえるでしょうか。

街づくりのビジョンが大切
廣野: 東京の大手町・丸の内・有楽町地区、いわゆる「大丸有地区」についてはビジョンをきちっと決めたうえで色々な施策を打っていることを伝えていきたいなと思っています。駐車場業界の方々は余りご存じないと思うので、少し説明します。

120ha(敷地約70ha)、建物約100棟、就業者数約28万人 提供:(一社)大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会

120ha(敷地約70ha)、建物約100棟、就業者数約28万人
提供:(一社)大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会

大丸有地区では官民で合意したガイドラインの中で、賑わいを作っていくために丸の内仲通りを主軸として、人を回遊させることを意識しています。それに基づいて、行幸通り、仲通り、更には日本橋川沿いの川端緑道は、賑わいを生み出すべく日中の一定時間(平日11:00~15:00、土日祝11:00~17:00)は車両の乗入禁止を2015年7月より実施しています。ヨーロッパでは教会や市庁舎の前にある広場を中心として、賑わいをつくる例が多いのですが、日本では昔から広小路の文化があって、広い通りで催事を行って賑わいを創出してきました。その意味において、仲通りを“賑わいの場”として使っていこうという考えです。そして車両の仲通りへの侵入を防ぐために運用面では、仲通りと直交する東西の道路に駐車場の出入口を作ることとなったわけです。これがトータルコントロールという意味での一点目です。

再開発前(1995年)提供:(一社)大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会

再開発前(1995年) 提供:(一社)大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会

 

 

 

再開発前(1995年)提供:(一社)大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会

再開発前(1995年)提供:(一社)大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会

再開発後(2017年)提供:(一社)大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会

再開発後(2017年)提供:(一社)大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会

再開発後(2017年)提供:(一社)大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会

再開発後(2017年)提供:(一社)大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会

 

もう一つ知られていないのが、東京駅前の行幸通りの再整備です。あそこには再整備前は駐車場の大きな出入口がありました。通りの幅員はパリのシャンゼリゼ通りと同じ73mあり、皇居と東京駅前広場を繋ぐエリアの“象徴軸”ともいえる場所なので、景観をどのように作っていったら良いか官民で議論を重ねました。その中で駐車場の地下ネットワーク化を進める考えがあり、2002年に丸ビルが出来た後、2007年に新丸ビルが出来、行幸通り地下に2層あった駐車場のうち地下1階の駐車場は無くし、地下2階だけにしました。地下1階部分は街の“賑わい施設”として、文化的な仕掛けができるギャラリーを作ることにして、地下2階部分は丸ビルと新丸ビルの駐車場と繋げ、出入りは双方のビルの駐車場を経由するようにして、行幸通りの出入口は撤去したのです。街の象徴軸、そして首都の顔である美しい景観をつくるという背景があった上で実現したことです。これは、広義のエリアマネジメントの中で、街づくり協議会が定めたガイドラインに明確なビジョンがあるが故に、実現できたことです。

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神田: 地権者には三菱系以外のビルオーナーも居られると思うのですが、皆ガイドラインに従って頂けるのですか。

廣野: 地権者の大部分の方々も協議会に参加されているので、基本的にはガイドラインに従って頂いております。実際に丸ビル、新丸ビル以外の建物もマスタープランに沿って駐車場が繋がっているものもあります。もう一つハード面の話として、ガイドラインでは物流に関しても規定しています。各施設の地下駐車場にある荷捌きスペースは、高さ2.2m位のものが多いのですが、新規のものは3m以上にして物流状況の変化に対応していく。更には各ビルに物流センターを開設し、一元的に館内配送を行うことを街づくりの一環としてやっています。

荷捌きスペース 提供:(一社)大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会

荷捌きスペース 提供:(一社)大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会

黒田: エリアマネジメントを通じた街づくりのハード面、仕組みの部分ですね。もう一つの機能に、“ソフト面での街の活性化”というものがあると思います。

廣野: ソフト面に関しては、附置義務駐車場を減免する地域ルールをこのエリアでは運用しています。各駐車場の運営実態を調査し、将来的な見通しも検討したうえで、適切なレベルまで整備する駐車台数を減らしています。建物所有者には削減された台数に応じて負担金を納めてもらうのですが、その一部は大丸有駐車環境対策協議会という組織を通じてエリア内の交通改善事業に使っています。具体的には、増設が必要となっている駐輪場の整備、駐車場の案内サイン改修、駐車場管制機器の更新等に充当されています。今後の課題は、先ほども少し触れましたが増大する物流への対応です。施設内へモノを運び入れる荷捌きの問題と、施設内のオフィステナントや店舗へ配送するいわゆる“縦持ち”の問題は、より精度を高めていかなければならないと思います。また駐車場の附置義務台数の見直しが行われたことによって、駐車場内に余剰スペースが生じていますが、この転用問題も対応していかねばなりません。多くの施設では附置義務駐車場部分は容積対象外となっているので、転用するにも用途が限定されてしまいます。現状では防災や環境系の施設、蓄電施設等に転用しても容積にカウントしないといわれていますが、それをもっと進めて、駐車場が近未来に増大する自動運転車に対応する場合の転用も認めてもらえれば良いと個人的には考えています。都心部の施設では、自動運転車の車寄せを確保するスペースが無いので、これらの車両は地下駐車場部分で受けざるを得ない。その地下でEV自動運転車が充電する間に、利用者が休憩できる空間、例えばちょっとしたカフェとか、コンビニエンスストア、そのような施設を駐車場付帯施設して認めてもらえるといいですね。EV自動運転車の普及に伴って、環境負荷を軽減し必要となってくる支援サービス設備や施設へスペースを上手く転用できると良いと思います。それから駐輪場へのニーズは増えていますが、駐車場から駐輪場への転用は可能なのでしょうか。

黒田: オートバイやスクーターなどの自動二輪車は、駐車場法の規定によって設備的に対応した駐車場は利用できますが、自転車は受入対象外となっています。また地下駐車場等のスロープがある駐車場では、自転車が入ってくると事故の危険性が高まるので、現実問題として受け入れは難しいですね。駐輪場は駐車場とは分けて整備されるのが通例です。

廣野: そうすると機械式駐輪場として地上部から機械で下す方法が考えられますが、大変なコストがかかります。もう一歩進んだ駐輪対策というものができるとよいのですが。

黒田: それに対するひとつの回答は、シェアサイクルであると思います。通勤の人は朝夕だけの利用でしょうから、昼間の時間は共用する。シェアサイクル事業は、駅前などに集中した車両を再配置しなければならず、単独での採算性確保は難しいといわれていますが、カバーされる範囲は広がってきています。

廣野: 利便性を求めるとシェアサイクルも地上部に配置されると思いますが、景観を考えた時に課題は多いですね。東京国際フォーラムでも、「ちよくる」というシェアサイクルがポートから溢れて周囲に無造作に置かれています。地下部分なり駐車場内に吸収できるのであれば、都市の景観は非常に変わってきますよね。

神田: おっしゃるように景観面を含め都市政策においても自転車や駐輪場の位置づけは変化してきています。そもそも自転車自体に3つのタイプがあると思います。一つが我が国で数の多いママチャリ型、それと最近通勤で使用する人も増えているスポーツ型。いわゆるロードバイクですが、結構高級車も多いですね。ヨーロッパなどでは、高級自転車は自分のオフィス内まで持っていくことも珍しくないようです。そしてシェアサイクルです。この三つのタイプの自転車は別物と考えるべきです。走行速度や使用形態、個人の負担も含めてかなり異なります。また、自転車の場合は単なる移動手段ではなく、個人の嗜好も入ってきます。これに加えて先進国の都市では、“健康や環境共生の観点”から明らかに自転車の価値がアップしてきています。こうした多様性を見せながら、自転車は進化し、市民により一層浸透してきているのです。シェアサイクルとロードバイクに乗っている人ではその用途や移動距離が違うのですが、その多様性を許容するのが都市のあるべき姿なので、自転車のタイプや使用形態に応じた駐輪施設が必要です。それをエリアマネジメントの中で考える場合には、駐車場全体のあり方を柔軟に考えるというのは大変重要なことと思います。

駐車場集約化とエリアマネジメント
廣野: 銀座などのように個々の敷地の間口が狭くて小さい敷地の多いエリアは、駐車場附置義務があっても作れないですね。ですから一体的に集約した駐車場施設をエリアマネジメント組織が運営することは駐車場の関係性では大きな要素ともいえます。

ぽっぽ町田駐車場 町田まちづくり公社HPより

ぽっぽ町田駐車場 町田まちづくり公社HPより

丸の内シャトル 日の丸リムジンHPより

丸の内シャトル 日の丸リムジンHPより

神田: そのような事例は以前からあります。町田市の「ぽっぽ町田」という施設では大きめの立体駐車場を先につくり、街なかで附置地義務駐車場が必要な場合はここの駐車場を購入させるルールにしました。そのようなやり方で商店街の中に細切れの駐車場を作ることを防ぎ駐車場を集約させたわけです。

廣野:「 丸の内シャトル」も環境共生という視点からさきほど話されたフリンジ論と元々は非常に似ているのですが、エリア内のフリンジに近いビルに車を止めてもらい、そこからは無料の電気バスで回りましょうという理屈で、国交省にもご理解いただいて実施しています。これもエリアマネジメント活動の中で生まれたものですね。

地方都市での取り組み方
神田: 富山市の副市長をしていた時に、この街でのエリアマネジメントはどうあるべきかという議論をしました。大丸有のように規模が大きくオールラウンドのエリアマネジメントは地方都市ではできません。地方都市では対象とする施策を絞っていくことが必要だと思います。縦糸と横糸に分けてやり方を見出していく。すなわち、例えば、縦糸はエリアとし、横糸はテーマとする。そのようにしてエリアマネジメントを織り上げていくのです。その対象とすべきテーマの一つが駐車場なのです。富山市の中心市街地で、エリアマネジメントで扱うべきテーマを駐車場にセットして、まずはばらばらに立地し運営されている駐車場をもう少し横連携させることはできないのか、さきほど料金の話も出ましたが、運用面であるとか、いろいろなことを連携してやっていくことはできないか、ということを議論し取り組み始めました。

黒田: 街にとって適切な、実行可能なもの、あるいは一番効果がありそうなものをピックアップしてやるということですね。

神田: もちろん、エリアを限定しガッチリとコントロールして、あらゆるフリーライドを排除していくやり方もあると思います。ただ地方都市ではそうした手法は難しいのが現実です。エリアとテーマを凡そセットし、それをエリアマネジメントの核として少し緩く活動を展開すべきです。縦糸であるエリアと、横糸であるテーマの交点を、展開すべき施策のポイントとして捉え、目標を定めてそれに向けて効果ある施策を進めていく。そのようなやり形が地方都市型のエリアマネジメントであろうと私は思っています。

エリアマネジメント財源に駐車場を活用
廣野: 2016年に「全国エリアマネジメントネットワーク」という全国組織ができて、活発に活動していますが、やはり各地で課題が異なり、解答も異なっています。ただ全国共通の課題がある。それは何かというと“財源創出”なのです。エリアマネジメントを動かすための財源をどうやって創出するか。自治体に潤沢にお金があれば、補助金を出したり、指定管理者として公共サービスとして活動するといった方法はありますが、多くの自治体では継続的な補助は出来ません。それでは自分たちでどうやって稼ぐか、これが非常に重要な問題です。一番簡単な方法は、エリアマネジメント組織が自ら収益施設を持ちそこから安定的な賃料収入を得て活動していくことです。良い例がさきほども触れた高松市の丸亀町商店街です。エリアマネジメント組織が駐車場を所有し、その収益が財源として活用されています。そういった意味において駐車場はエリアマネジメントを行っていく上で十分な収益源になるし、集約駐車施設を共同で作り、それを運営していく方法は地方都市でもできるのではないかと思っています。

神田: 私は富山市で第三セクターのまちづくり会社である「株式会社まちづくりとやま」社長を兼務で務めていましたが、副市長が社長を務めていることでわかるように、行政主導のまちづくり会社でした。その5年ほど前には倉敷市の(最後の)助役もしていましたが、倉敷市には倉敷まちづくり株式会社があり、これは民間主体で運営されていたのです。彼らが主張していたのが街づくりのための財源問題で、市中心部にある市営駐車場の運営を任せてもらいその売り上げの一部を街づくりのために使わせてほしいと熱望していました。私の在任中には実現できませんでしたが、その後実現し、今は同社が指定管理者となり、市営駐車場の運営管理を受け持つとともに、その収益の一部が同社の街づくりの活動資金として充当されている。もちろんすべての収益が充当される訳ではありませんが、一定程度の運転資金が入ってくる仕組みが出来ています。多くの街づくり会社が行政に頼って運営されているなかで、民間から発案され、後から市が一定の支援をするというタイプの事例であると思います。駐車場の売り上げを活動資金としているという点では丸亀商店街と似ていますが、経緯は全く異なります。倉敷市では当時、エリアマネジメントという言葉は用いていませんでしたが、事実上は美観地区等において民間主導のエリアマネジメントで街づくりを進めているのです。その活動を支えるエンジンが、まさに廣野さんご指摘のように駐車場経営なのです。

グランフロント大阪 うめきた広場

グランフロント大阪 うめきた広場

2017年に初開催した「大相撲うめきた場所」

2017年に初開催した「大相撲うめきた場所」

廣野: 私はエリアマネジメントとは“官民連携”の一つのツールだと思っています。大阪駅前グランフロント大阪には1haの「うめきた広場」がありますが、底地は大阪市が持っています。それを民間事業者が定期借地契約や維持管理協定を結んで借りています。大阪市の都市計画局長は、民間に施設を作ってもらい、色々な知恵を出して賑わいを創出してもらい、且つ地代も入り有り難いとおっしゃっていました。大阪市は財政事情が厳しいですから、その代わりに公的空間の規制緩和をして民間を支援する。こういう取り決めを行ったことにより広場は大阪の一つの顔になり、街の活性化がすごく図られています。正にエリアマネジメントが官民連携のなかで成果をだしているのだと思います。

街づくり人材の確保と育成
黒田:“ エリアマネジメント”にせよ“街おこし”にせよ、各地で進めていくには必ず担い手の問題が出てくると思います。やはりそのような取り組みには、頑張って汗をかく人がいないと難しい。そういう意味では自分たちの将来に対する危機感を持っている人が何人かいて、その人達にどのように上手く経験を積んでいって貰えるかということがポイントになってくる気がします。

廣野: おっしゃる通り“人材育成の問題”はすごく重要で、小さな自治体、小さな街、地元だけではできません。だから外部からプロデューサーとなる専門家を連れてきて、エリアマネジメントを進めている事例が少しずつ増えています。

黒田:いわゆる「街を変えるのは、よそ者、若者、ばか者」という話ですね。

廣野: 実際にそのエリアに惚れ込んで根付いた人も沢山います。自前主義でやるといってもなかなか難しく、外部から来た人が地元の問題意識の高い人たちを取り込んで、OJTなど様々な形で一緒にやっていくことが始まっています。

黒田:そのような人材を派遣するシステムとか、何かそういった動きはあるのでしょうか。

廣野: 明確なものはありませんが、「全国エリアマネジメントネットワーク」ができたことによって、九州から札幌まで各地で何が起きているのか情報がよく分かるようなってきました。

黒田:取り組み手法や、成果などが共有化できるようになった。

廣野: そうですね。様々な事例を体系的にまとめた冊子が出来ていますから、あるやり方が自分たちの街に合っていると思ったら、そこに問い合わせをしてみることですね。そうすると取り組んだ人や仕組みがわかり、自分たちの街も相談に乗ってくれませんか、といったように広がっていきます。結局、エリアマネマネジメントとはプロデュース機能なので、その人だけが何かをやるのではなく、その人が適材適所に知恵のある人を如何に集められるか、資金を集められるか、といった事柄に成否はかかってきます。そのようなノウハウを持った人材をこれから育成していかなければなりません。

黒田: そのような動きの中に駐車場経営という立場から、事業承継はどうするか、街をどうするか、といった意識を持った人たちも関わっていくことが大切なのでしょうね。

神田:“ ずっと支えていく、住み続けられる、生業をし続ける人”がそのノウハウを学んでやれることが理想ですが、なかなか上手くいかないことも多く、そのあたりが難しいところですね。

 

オリンピック・パラリンピックとレガシー

黒田: さて最後になりますが、2020年のオリンピック・パラリンピックへ向け様々な準備を進めておられると思います。街づくりや活性化といった本日のトピックに関連する取組みをお聞かせいただけますか。

健康的な街づくりを目指す
神田: ロンドンオリンピックの時に「レジブルロンドン」(Legible London)という、街なかでの歩行や自転車を中心とした移動の質を高める為にサインシステムを統一するプロジェクトがあり、オリンピックを機会に、市民に健康的なもの、あるいはスポーツをもっと親しんでもらおうという運動が展開されました。東京でもそうですけど、スポーツの祭典をきっかけに、国民、都民、市民が幸せである、健康であるというシーンにつなげたいって思いがありますよね。それがロンドンでは実現できていて、それが「レジブルロンドン」です。

レジブルロンドン サイン例:徒歩5分で移動可能な範囲を円で表示 ロンドン交通局HPより

レジブルロンドン サイン例:徒歩5分で移動可能な範囲を円で表示 ロンドン交通局HPより

レジブルロンドン サイン例 拡大

レジブルロンドン サイン例 ロンドン交通局HPより

例えばここからスタートして、ここを通ってこういう風に歩いていくと2000m位ありますよ、そういう情報を地図の中に入れたりして、積極的に歩いてもらおう、自転車を使ってもらおうという、そういった施策です。それによってロンドンオリンピックを契機にロンドン市民が歩く、自転車をより使うというモードに入ったのです。我が国でも、東京がオリンピックへの立候補段階から研究をしていまして、同様な施策ができないかと関係者、関係機関と話をしています。私もライフワーク的に「健康まちづくり」の視点で街づくり進めていて、思わず歩きたくなる街とか、街なかで歩き易い空間といった都市環境を整えていく。気が付いたら自然とウインドショッピングしながら歩いている、そういった“市民を健康にする街づくり”を目指しています。その一環で、特に障害を持っていらっしゃる方とか、リハビリ中の人とか、そういった方々にとっても暮らしやすいという都市の新しい価値を東京をはじめとする各都市に加えられないかと思っています。

黒田: オリンピックのレガシーとしてハードではなくて、“生活者の意識を変えていく”、それを誘導するような仕掛けを考えていくということですね。

廣野: ライフスタイルが変わっていくということですよね。ですから“レガシーは文化”だといいますが、文化というのは広い意味で人の生活の仕方であるとか、考え方ともいえます。環境共生や健康など、これから高齢化が進んでいく社会の中で、今回のオリンピック・パラリンピックをきっかけに改めて自分で問い直してみる、そういう機会かもしれません。

神田: おっしゃるとおりです。また、2020年へ向けてシェアサイクルを実施する都市を100にする目標があります。今は60を超えて70位なので、ターゲットに十分入っています。このようなイベントが一つのきっかけとなって、街中での自転車利用が進むというのが一つの期待ですね。

アクセシビィティと心のバリアフリー
神田: レガシーとよくいわれますけど、レガシーにもハード面とソフト面が当然あります。ハード面については、新国立競技場などが代表例といえますが、もうひとつあげるとエレベーター等の“アクセシビリティ”があると思います。人々が移動する際に各鉄道駅の施設や、公共施設などへの“アクセシビリティ”が格段に向上するということになるので、これもひとつの分かりやすいレガシーになります。一方で“ノーマライゼーション”の根本の概念として、障害者が普通の生活を送ることを可能にするという考え方があります。“心のバリアフリー”といいますが、障害のある方に対して障害者だから特別扱いするのではなく、障害者でも少しサポートしてあげたり、施設が少し改善されると普通の生活ができる、それが重要なのです。ですから“心のバリアフリー、我々の心の中にあるバリア”を、どんどん無くしていこうと、ここがソフト面の、目に直接見えないことも含めたレガシーになると考えています。また、IoTを活用した施策として、例えば、目の不自由な方に向けたアプリケーションをあるNPOの皆さんと共同で開発を進めています。音声による道案内を可能にするものです。駅を降りてから改札を背にして、そのまま点字ブロックを40m進んで右に曲がって下さいとか、言葉でアナウンスすることができる。音声によって道案内ができる、しかも安全なルートを案内できるようになりますから、こういった取組みも当然レガシーになっていくのです。

黒田: そのようなアプリは多言語対応できれば、海外からの旅行者にとっても便利なシステムになりますね。多様な人々にとって使い勝手のよいバリアフリー施策は、かなり近いところで現実化しつつある高齢化社会への対応にもつながっていく訳ですね。

神田:まさにその通りです。

廣野: 最後に東京国際フォーラムでは、2020年東京大会のウェイトリフティング、パワーリフティングが開催されます。是非お越し下さい。

黒田: 今回は「街活性化と駐車場」と題して、駐車場の持つ社会的・都市的な機能や、エリアマネジメントとの関係、更には2020年に控えたオリンピック・パラリンピックを契機とする社会の望ましい変化など、お二人のご経験を踏まえ様々なお話を聞かせて頂きました。長時間に渉り、誠に有難うございました。

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以上