これからの駐車場ビジネス(第3回) 「高付加価値な駐車場サービス」~先進技術とヒューマンタッチなサービスの融合~
株式会社駐車場綜合研究所 コンサルティング事業本部
エグゼクティブコンサルタント
木村 直子
駐車場を取り巻く環境は、これまでにない大きな変換期にあります。少子高齢化と自動車保有台数の推移により、駐車場は「量」から「質」を求められる時代に入りました。その一方で、あらゆるモノがネットワークにつながる「IoT(Internet of Things)」時代の到来により、自動バレーパーキング(駐車場内における自動運転、自動駐車)や、駐車場予約・管理といった車や駐車場にまつわる研究やシステム開発が活発化し、駐車場ビジネスは様々な企業から注目される分野となっています。
本稿では、駐車場を取り巻く外部環境の変化について確認した上で、先進技術の活用とヒューマンタッチなサービスを融合することで、時代に合った駐車場経営の実現、他との差別化をどのように達成するかについて考えたいと思います。
1.都市機能としての駐車場の在り方
大都市圏では、附置義務駐車場の整備に伴い駐車容量が充足しつつあり、ヨーロッパの都市などを先進事例とするコンパクトシティ+ネットワークの構想に基づき、都市交通や駐車場の再整備が進められています。
全日本駐車協会の会員駐車場は、各地域のリーダーシップを取る駐車場であり、言わば駐車場の地域一番店と言うことができます。立地条件としても、各地域の交通ネットワークの中心に位置する場合が多く、地域交通の要として交通ネットワークの中心となる役割を担う必要があると考えます。
また、高齢化社会、都心回帰を見据えて、安心・安全で停めやすく快適な駐車場を創ることで、他駐車場との差別を行うことも大切です。
2.自動車登録台数の頭打ちと附置義務台数緩和等の影響
国内の自動車保有台数は、2014年度の保有台数8000万台突破以後も増加を続けているものの、伸び率は鈍化しています。一方で、車の利用形態が「所有」から「利用」に変わるにつれて、カーシェアリング等の新サービスが台頭しており、「車社会の利用形態の変化」については注視する必要があります。
カーシェアの需要が今後さらに高まると、車を停める機能(昼間は駐車場を利用、夜間利用は少ない)と車をストックする機能(昼間は外を走行して稼ぎ、夜間は駐車場を利用)が共存することになり、駐車場におけるお手玉運営(二毛作)が成立することになります。カーシェアの運用は車室固定で行われる場合が多いですが、例えば、時間帯で利用制限を行うエリアを指定し、昼間は一般の駐車利用、夜間はカーシェア利用にするなど、目的ごとの運用時間をコントロールすることで駐車場の稼働率をより高めることが可能です。
3.バリアフリー、インバウンド観光客など多様化するニーズへの対処
2020年の「東京オリンピック、パラリンピック」に向けて、インバウンド需要は増加を続けており、直近の2016年の訪日外国人旅客数は前年比22%の大幅な増加となっています。
北海道や沖縄など車観光が主となる地域における外国人のレンタカー利用の多さは元より、全国の主要観光地においてもレンタカー利用者が目覚ましい速度で増加しています。
また、個人旅行の多い欧米、韓国、台湾、タイなどに続き、中国からの観光客も団体旅行から個人旅行へのシフトする変換期を迎えています。これからは、日本全国の中心市街地や観光地の駐車場でも、外国人の駐車場利用を想定する必要が生じています。
観光地に近い駐車場では、多言語サインの導入により安全対策の強化を検討したり、利用者へのアピールとして観光マップやレンタカー、カーシェアリング会社への情報提供、ホームページ、スマートフォン、カーナビへの料金、混雑状況などの情報提供が必要になるのではないでしょうか。
4.「量」から「質」への転換が求められる駐車場
駐車場が「量」から「質」への展開を求められる現在、ゆとりある車室、停めやすく分かり易い駐車場案内を行うことは大変重要です。
既存の駐車場であっても、サインの改修、路面ペイントや招き灯による誘導強化、車寄せの設置、ハートフルエリアの設置などにより、快適性を保持することが可能です。
快適性を重視した駐車場整備の一例として、トイレの美化も非常に効果が大きいという結果が出ています。最近の駅や高速道路のパーキングエリアのトイレ
は、商業施設のトイレ並みに快適な空間となっています。
ある駐車場改修の事例では、安全で快適な駐車場整備計画を実行したところ、女性の利用者が20%程度増えたという実績があります。駐車場入口にはベンチを設置、入口の最も駐車しやすいエリアは、床面を明るいピンクで塗装したハートフルエリアを設置し、トイレは緑化パネルを設置し、ベビーベッドなども整備することで、小さなお子様を連れた女性利用者の支持を得ることができました。
5.高齢化と駐車場の安全対策
近年高齢者の運転時のハンドル操作ミス、アクセル・ブレーキの踏み間違えによる重大事故の件数が増加しており、報道などでも多くとりあげられています。車による事故総数が減る一方で、残念ながら高齢者による運転ミスは増え続ける傾向にあります。総人口に占める65歳以上の人口の比率が27.3%(内閣府、平成29年版高齢社会白書)となる高齢化社会においては、安心安全な駐車場の環境創りが大変重要なテーマとなります。
自走立体駐車場の安全柵については、2トンの自動車が時速20キロメートルで直角に衝突することを想定し、250キロニュートンの衝撃力に耐えるべきことを求める指針が国土交通省から出されています。
【指針の要旨】
直下の地面からの高さが5.1メートル(多数の者の利用する道路、広場等に転落するおそれがある場合は2.1メートル)以上である駐車場その他の自動車が転落することにより重大な事故が生じるおそれのあるものに適用。
安全柵装置等に作用する衝撃力等は、次に掲げる数値によること。
ア 衝撃力:250キロニュートン
イ 衝突位置:床面からの高さ60センチメートル
ウ 衝撃力の分布幅:自動車のバンパーの幅160センチメートル
指針は旧建設省の昭和61年9月1日付け住指発第185号通達、「建築物の構造関係技術基準解説書」に掲載されている他、平成15年2月25日国住指発8290号「駐車場における自動車転落事故防止対策について(技術的助言)」、「駐車場における自動車転落事故を防止するための装置等に関する設計指針」でも確認することができます。昭和61年以前に建設された駐車場の場合、基準を満たしていないケースもあるため、安全柵の強化などの対策を取ることが望ましいと考えます。
図:後施工による駐車場安全策の強化を実施例、当社資料
6.駐車機能の再配置、活性化
中心市街地における駐車場の再配置計画等において隔地の駐車場が認められる場合は、既存駐車場の活性化や活用がテーマとなるケースが多く、新規計画で必要な駐車場の受入側となることを求められる場合があります。隔地駐車場として契約を行う場合、概ね20年の契約となり(地域により1年契約自動更新となる場合もある)、借りる側は駐車場を新たに建設する費用がかからず、貸す側は既存駐車場を有効活用できるため、双方のメリットとなります。
従来の大店立地法や附置義務駐車場の計画において隔地駐車場が認められるケースに加え、平成28年6月には宿泊施設整備促進による特例として、既存の駐車場を活用するなどの駐車場整備に関する緩和の考え方が示されました。
【宿泊施設の整備に着目した容積率緩和制度の創設について】
- 該当する駐車場から概ね300m内の距離にあること。
- 出入口の安全が確保されていること。
- 建物の附置義務駐車場である場合、附置義務台数より余分に駐車台数が整備されていること。
- 受入台数をプラスしても、稼働状況にゆとりがあること。
7.機械式駐車場老朽化問題
昨今見られる経営課題として、機械式駐車装置の維持管理費や更新費の問題があります。立体駐車場の多くは1基30台程度を収容するタイプが主流で、投資額は1億5千万円位ですが、15年~20年経過すると更新の必要が生じてきて初期投資と同じ位の費用が必要になります。
機械式駐車場が設置時の想定通り稼働していれば問題ありませんが、導入時から年数も経ち、駐車パレットサイズや高さが現在流通している車と合わない場合は、稼働率も下がり固定費が大きな負担となり、これを負担できない駐車場オーナーが出て来ます。しかしながら撤去してしまうと附置義務条例に抵触する可能性があるため、稼働させずに放置するという事例が増えてきています。駐車場が都市交通インフラを担う地区でもこのような事態が発生しているため、社会的問題として対処されることが望ましいのではないでしょうか。
8.先進技術の活用
これからの駐車場運営では、自動化するケース、人的サービスを行うケースの2極化がますます進むのではないでしょうか。
電気自動車販売台数の伸び、コネクテッドカー、自動運転車の開発への期待など、車や駐車場を取り巻く環境は日々目覚ましい進歩を遂げています。IoT関連事業において、車両のコントロールは非常に大きなテーマですが、駐車場ビジネスが成熟している国内マーケットにおいて、システム開発会社等の企業が駐車場関連ビジネスに取り組むためには駐車場運営を知ることが非常に大切だと考えています。駐車場運営には多様なノウハウが必要であり、特に施設型の駐車場の車のコントロールは運営事業者にしか分からない安全対策、誘導、運用のコツやポイントが多くあります。世の中の先進技術を駐車場運営の場で活用するには、IoTを活用する企業と駐車場運営者の十分な対話が大切だと考えます。
自動化のケースとしては、以下のようなものが考えられます。
①売上データのクラウド化、システムによる経営分析
②キャッシュレス化、繁閑による料金の自動設定
③駐車場AI(過去の稼働状況からの混雑予測、入庫・出庫ピーク時間の案内)
④駐車場内の混雑状況に応じた、エリア誘導
⑤ロボット活用
⑥駐車場のネットワーク化 (満空案内、混雑時は近隣駐車場へ誘導)
ロボット活用としては、ソフトバンクのPepperなど既に流通している製品の機能に加え、駐車場サービスに特化した機能が求められるのではないでしょうか。
当社では、駐車場のリニューアルを提案する際に、積極的に3D CADを活用しています。駐車場を立体的に捉えて、サインの不足している箇所、合流地点など安全を強化すべき地点を客観的に再認識し、新たに設置するサインの表示サイズ、内容、設置位置が適切かどうかを視覚的に確認することが可能なため、新規計画のみならずリニューアル工事等においても最大限の効果を上げることができます。サイン更新を平面図で検討した場合と、3Dで検討した
場合を比較すると、最終計画に移すまでの時間短縮効果は絶大で、平面で検討した場合と比べて、現場でサイン設置個所を調整したり変更するなどの手戻りが大変少なくなりました。
写真:ドライブシミュレーター、ヘッドマウントディスプレイ、VR画像、当社資料
写真:招き灯、駐車位置検索システム、当社資料
広島の「もとまちパーキングアクセス」では、地下車路に接続する4駐車場の駐車場の入出庫台数をクラウド化し、道路案内表示やホームページ、スマートフォンページで示すことで、街を訪れる利用者の利便性を高める大幅なシステム更新を実施しました。道路案内板の設置が難しい場合においても、中心市街地の主要駐車場の空き台数をリアルタイムでWeb配信することで、ユーザーから選ばれる駐車場創りをすることが出来ます。昨今は目的地に向かう際に、予め情報収集したり確実に駐車できることを求める利用者が増えており、アーティストのコンサート等、他府県からの車利用が多い時期は、駐車場空き台数表示の閲覧が高まっています。
写真:もとまちパーキングアクセス、道路案内板、駐車案内、当社資料
9.ヒューマンタッチなサービス
人によるサービスのケースとしては、以下のような内容が考えられます。人の手を介してサービスを行うため、サービスの幅は大幅に広がります。
①バレーサービスの実施
②予約サービスの実施
③洗車、カーケアサービスの実施
④託児サービスの実施
⑤宅配受付の実施
⑥観光拠点としての機能提供、観光バス駐車場との連携
また、駐車場を利用するお客様が求めることとしては以下のようなものがあると思います。
①目的地に近いこと
②適正な駐車料金であること
③入出庫がスピーディーに行えること
④空き車室が容易に発見できること
⑤明るく、綺麗であること
⑥ 安全で駐車しやすい構造であること(ゆとりのある車路幅、広い車室、適切な誘導サインや注意灯)
⑦防犯上の心配が少ないこと
⑧緊急時に対応してくれる管理人がいること
他にもいろいろあると思いますが、ここでは有人管理駐車場であればできそうなことについて説明したいと思います。
有人管理は当然ながら人件費が発生しますので、無人管理と比べると管理コストはどうしても高くなりがちです。しかし、世の中の駐車場には、有人管理の駐車場がたくさんあることも事実で、大規模駐車場や人や車の交通量が多く入出庫誘導が必要となる駐車場は当然として、駐車場内で有人管理をしている場合の効果について考えたいと思います。
施設併設の駐車場の場合、その施設が仮に百貨店である場合、駐車場は買い物に来るお客様が最初に訪れる所であり、また買い物をしたあと最後に出発する所になります。つまり、最初と最後の経験が駐車場となるわけで、お客様の満足度が高い駐車場かそうでないかは、百貨店自体への評価につながるとも言えます。
一流ホテルがドアマンに語学や接客スキルの高い人員を配置するのと同様に、百貨店の駐車場係員がお客様を笑顔で出迎え、困ったことがありそうな方にはお声掛けするという行為は大変重要です。荷物の受渡し、道案内、入庫誘導など人を介したサービスや、巡回による防犯、こまめな清掃など、有人管理にしかできない数多くのサービスがあります。
写真:百貨店、商業施設等の管理風景、当社資料
百貨店はお客様サービスが最も厚い施設と思われますので、次に街中によくある時間貸しの単独駐車場について考えたいと思います。
街中の自走式立体駐車場を想定します。このような駐車場の入庫口は、大半が入口に自動発券機、出口には自動精算機が設置され、自動精算機による出庫の場合、事前精算を行ったお客様は駐車券を精算機に挿入すれば短時間で出庫できますが、事前精算を行なっていないお客様は、サイフからお金を出したり、おつりを受け取ったりの時間が余分にかかります。事前精算する人の割合は大体70%ぐらいと言われており、事前精算をしていないお客様が多いと出庫渋滞が発生することもあります。
商業施設の出庫ピーク時には、人による料金徴収の場合は、自動精算機よりもスピーディーな処理が可能のため、自動精算機を設置している駐車場でも、混雑時には人による料金徴収に切り替えるケースもあります。人による料金徴収の場合は時間の短縮だけでなく、人ならではの対応も可能となります。「いつもご利用いただきありがとうございます」「気を付けてお帰り下さい」「またのご利用をお待ちしています」などの一言で、お客様の気分や駐車場の印象が大分違ったものになるのではないかと思います。
料金徴収業務以外にも、人による駐車場運営のメリットは多く、例えば、制服を着た管理員が駐車場内を巡回している姿を見たお客様は、安心感が増すものと思われます。無人管理駐車場では当て逃げや車上荒らしなどの不安がありますが、こうした巡回警備により不安感は軽減されると思われます。
駐車場における付加価値サービスや、有効活用としては、「託児所の設置」「宅配便の荷物受取」「洗車サービス」「倉庫利用」等が考えられます。また、「駐車場の料金体系」の問題があります。企業で利用する多くの営業車等は月極契約が主でしたが、時間貸し料金の設定が多様化し、車の使い方次第では月極と時間貸しの料金差が無くなってきています。
「量」から「質」への転換の項目でも採り上げましたが、最近の高齢化の進行や、女性ドライバーや子育てママの自動車利用の増加に対して「人に優しい駐車場」が求められています。
高齢者は運転のスキルが低下しがちですので、広い車室を案内したり、場合によっては駐車時の運転代行、重い荷物の積み下ろしのお手伝いなど、人を介してならではのサービスの提供が可能です。女性ドライバーや子供連れのお客様にも、満足度の高い駐車サービスの提供が可能となります。バレーサービスなども海外では比較的安い金額でサービスを提供しており、小さなお子様連れの家族が気軽に利用する様子が見られます。
有人管理とするか、無人機械管理とするかは、駐車場の規模・構造、性格(施設併設型か、単独型か)、料金水準、経営面での収支バランス、それぞれの駐車場に求められるサービス水準などを総合的に判断して決めることになりますが、システム化が進む今日だからこそ、ヒューマンタッチな駐車場の存在は貴重であることは間違いなく、先進技術の活用とヒューマンタッチなサービスを融合することで、駐車場経営において他との差別化を達成することができるのではないでしょうか。