研修会参加レポート
一般財団法人京都市都市整備公社
常務理事 玉田 肇
総務課長 山口 健
3月1日の東京駅は、やや曇り空ながら、気温は暖かで、それでいて、やはり忙しげな雰囲気で私たちを迎えてくれました。京都駅から新幹線「のぞみ」で138分。この間にも、楽しいエピソードがありましたが、今回のレポートでは割愛させていただきます。ということで、東京駅に到着した私たちが、行き交う人々の波にもまれながら、ビジネスマンの咳払いや、観光客が引くキャリーバッグの車輪音、小さな子どもの笑い声、誰かの携帯電話が着信を告げる電子音などに包まれた場面から、このレポートは始まります。
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どこからか、弾むようなメロディが微かに聞こえてきました。これは、たしか「小犬のワルツ」ではないか。200年以上前のこの日に誕生した西洋の音楽家ショパンの名曲に耳をくすぐられ、私はふと空を見上げました。穏やかな春風が舞い過ぎて、都会の雑踏の音をかき混ぜます。適度な雑音は集中力を高める効果があるとも言います。私には、この都市(まち)が、これから迎えるオリンピック・パラリンピックへの期待に胸を高鳴らせ、あたかも、小犬が自分の尻尾を追いかけて駆け回るかのように、楽しくてしかたないと喜んでいるように感じられました。そして、それはおそらく、本日参加する研修会への期待に通じるものなのでした。
平成31年春季駐車場研修会。今回の研修テーマは「国際スポーツイベント会場を知る」、「丸の内複合用途ビルの開発事例を知る」の2つということで、先進的な取組みに触れられる貴重な機会として、参加させていただけたことを嬉しく思い、改めて感謝いたします。
集合場所で、バスが駐車するのに手間取るといった小さなハプニングがありましたが、かえって参加者一同の緊張もほぐれ、和やかな雰囲気で、味の素スタジアムへと向かうことになりました。
§1 国際スポーツイベント会場を知る
味の素スタジアム、通称「味スタ」は、日本初のネーミングライツ方式によって企業名を冠した公共施設として有名ですが、今年はラグビーワールドカップの開催会場であり、2020年東京オリンピック会場でもあることは、もはや周知の事実といって差し支えないでしょう。隣接の「武蔵野の森総合スポーツプラザ」とともに、東京オリンピック・パラリンピックの成功の鍵となる施設であり、いま最も注目したい場所のひとつであります。
この世界的スポーツイベント会場の、バックヤードまで見学できるとは。しかも、ご説明いただくのは、株式会社東京スタジアム代表取締役社長の、横溝良一社長。社長自らが私たち一行を「おもてなし」してくださいます。
はじめは、選手気分で通路を歩き、監督になったつもりでピッチサイドからフィールドを見渡し、関係者の気分でアナウンス室や放送ブースを…と、特別体験が目白押しの見学ができることに胸を踊らせていた私たちでした。実際に、説明を受けながら、普段は立ち寄れない場所を、普段は意識しない視点で見てみると、多くの関係者たちの、それぞれの「思い」がこめられた知恵や工夫に圧倒される思いがしてきます。
味の素スタジアムは、その仕様や機能、実際の使われ方などにおいて、一面的ではなく、さまざまな特徴を持っています。一つは、スポーツ施設としてのスタジアムの顔で、サッカーJリーグのホームチームであるFC東京と東京ヴェルディの主催試合のほか、なでしこリーグの開催から地元の陸上競技大会まで、スポーツ振興のための働きを十分に果たしています。他方で、大型コンサートや展示会、フリーマーケットなどイベント会場としての顔も併せ持っていて、その観客動員や収容能力の高さは、我が国の経済にとっても欠かせない要素であると言えます。
施設内を歩き、職員の方から説明を伺いながら目の当たりすると、他の施設との違いにも気付かされます。そして、その違いこそがまさしく長所となっていることが実感できます。
あまり詳しく紹介してしまうと、直接的な感動が薄れてしまうと思われますので、敢えて、ごく一部のレポートに留めます。機会があればぜひとも実際に体験されることをお勧めします。とにかく、さすが「味の素」です。ひと味ちがう!
§2 丸の内複合用途ビルの開発事例を知る
丸の内二重橋ビルは、昨年10月に完成した地下4階、地上30階建ての大型複合用途ビルです。かつての「富士ビル」「東京商工会議所ビル」「東京會舘ビル」3棟の一体建替えによるもので、世界有数のビジネス拠点である丸の内エリアにふさわしい外観と機能を兼ね備えた魅力ある建物となっています。11月には、大人志向の新たな商業施設として、敷地内に「二重橋スクエア」もオープンしており、日本初出店の店舗をいくつも抱えた、こだわりの空間を演出しています。
こうした優雅さと上品さを備えながら、街を活気づける躍動感に溢れたオープンスペースを裏で支えているのが、最新の防災性能をもって整備された開発力です。都市再生特別地区として計画されたということで、災害時の業務継続機能の向上を図り、単体でのビル開発を超え、エリアとしての防災性能を重視して整備されています。災害時のエネルギー供給と帰宅困難者支援機能といった、防災対応力の強化のほか、地下歩行者動線や地下駐車場ネットワークにも配慮した空間設計は、まさしく都市整備を示す成功事例の一つであるといえます。
また、国際会議やグローバル規模の会合を誘致できるバンケットやホールも整備されており、国際交流機能・環境負荷低減機能など、それぞれのシステム・マネージメントと、各セクションにおけるスタッフのオペレーション精度の高さには畏敬の念さえ覚えます。そして、それは、基幹としての理念が随所に浸透しているからこそ可能なのだと感じました。
私たちが携わる駐車場運営におきましても、平時の快適さだけでなく、有事の心強さは重要なファクターであります。たとえば、災害時の支援拠点となるような駐車場づくりや、自動車の自動運転技術・無人走行に対応した場内誘導マーカーなど、駐車場側の整備が課題となりつつあります。今後の駐車場施策としては、量的整備から質的整備に向けた方向性のシフトが求められています。今回、見学させていただいた開発事例を参考に、災害に強く、かつエリアとしての機能・魅力を向上させるための都市整備において、例えば駐車場部分の整備から、微力ながらでも貢献できれば、街全体の魅力はさらに向上し、都市機能や交通利便の向上にも繋がります。駐車場の利用率が上がることも期待できましょう。
今回の研修会に参加して、この変革の時代に必要な先進的な取組みや、街づくりに関するソリューションの提案事例に触れることができ、とても貴重な体験をさせていただきました。この感動と経験を社内に持ち帰り、全社員で共有し活用していけるよう考えたいと思います。そうすることで、今回の研修会がさらに大きな意味を持つものとなり、併せて、事務局をはじめ、ご厚意いただいた皆様への感謝を表せるものと考えます。東京駐車協会様と全日本駐車協会様の益々のご発展と、関係各位のご健勝を祈念申し上げます。ありがとうございました。