海外研修レポート 平成26年 インターナショナル・パーキング・インスティテュート(IPI) とのミニシンポジウム

今回の研修会においては、米国の駐車場団体である、インターナショナル・パーキング・インスティテュート(IPI)と日本側の双方で、それぞれの団体の歴史並びに活動、更には業界としての課題や展望等についてプレゼンテーションのうえ、意見交換を行いました。

米国側からは、ランボー理事長、コンラッド専務理事並びにサリバン氏の3名が参加され、なかでもランボー理事長は今回のシンポジウムの為に、テキサス州ヒューストンから駆け付けて下さいました。

本稿では、会員の方々にとって興味深いと思われる米国側のプレゼンテーション内容について報告致します。

1.コンラッド専務理事による挨拶

本日の会議では、日本側と米国側の意見交換をしたい。この場を通して色々なことを学び、お互いを知りたいと考えている。IPIは1962年に設立された組織である。1962年に全国市長会が開催され、市長並びに議員等がそれぞれの地区で抱えている駐車場に係わる問題を話し合ったのが端緒である。我々は、パーキングとは「課題解決策」であると思っている。52年前に始まった組織であり、5,000以上の会員を擁する世界最大の組織となったが、それぞれが持っ ている知識・経験を共有しようという趣旨は発足時と変わらない。

3年前、IPIは世界に目を向けるようになった。各国には駐車協会があり、それぞれ活動を行っていることを知った。パーキングといっても世界ではそれぞれの課題があるが、どの国にも、街や大学、病院等に駐車場が同じようにある訳で、それぞれで起こっている出来事を 共有して学ぶことができると思っている。課題は全てについて解決策が見出せるものではないが、それを持ち寄って共有し、議論していこうという活動である。

小清水副会長には本日の会議を設定していただき、本当に感謝している。この機会を活用して日本側の課題・認識等も是非勉強したいと思っている。

2.IPI側 プレゼンテーション

IPIの組織等について

これよりアメリカ側のプレゼンを行うが、皆さんは日本と大変似ているなと感じられることと思う。最初に米国の駐車場規模についてお話したい。米国では、2.3億台のクルマがあり、2030年には2.87億台になると見込まれている。政府の試算では、1.05億台分の駐車場があるとされているが、実際にはもっと多くの駐車場があると考えている。住宅付随のものを除き、イベント用の臨時駐車場や、スポーツ施設更には複合施設の駐車場等を含めると更に数字が膨らむこととなる。私達はクルマ1台あたり2.5台分、つまり5.75億台分の駐車場があると考えている。

それでは、IPIの組織について説明したい。組織の主たる目的は、“Advancing the parking profession”つまり、「専門知識に立脚した駐車場業をより進化させる」こととしてい る。この部屋に居られる方々はみな駐車場が重要であることを理解されていると思う。しかし、駐車場を利用する人達はその重要さを実感していないのが現実である。駐車場の役割について、連邦政府の前運輸長官が我々の機関誌に掲載されたインタビューで、「都市計画に於いては運輸政策と駐車場政策は統合して検討されねばならない。」と述べている。運輸システムに関して駐車場が非常に重要であることを、政策決定のトップにいた前運輸長官が認識していることは、我々にとって非常に喜ばしいことであった。

先程述べたようにIPIは1962年に設立された世界最大の駐車場関連組織であるが、世界最大の駐車場に関する展示会であるトレードショーを開催することで良く知られている。展示会はフットボール場4面程度の面積を利用し、35カ国から3,000人が参加、225の展示ブースを擁する規模である。併せて、我々は駐車場運営に係るトレーニングや教育が非常に重要と考えており、期間中に60以上のワークショップを開催している。

次に会員の属性について説明したい。我々は駐車場業に係わる様々な部門を代表しており、 政府関係、学術関係、空港、病院、運輸業、施設運営者、コンサルタント、サプライヤー等、駐車場に関与する全てのセクターの人々が会員となっている。また、調査、教育、安全、PR、技術等、16の委員会を設置しており、約500人がボランティアとして活動している。更に、IPIには2つの関連する組織、一つはコミューター交通運輸協会、もうひとつは後程説明するが、NPOのグリーンパーキング委員会がある。

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重点施策について

IPIの最も重要な目的は駐車場に関する専門職業意識、所謂プロフェッショナリズムの向上を図ることである。その為、駐車場に関する教育や訓練に力を入れており、駐車場ビジネス の紹介から始まり、関連法規、技術、顧客サービス、トラブル対応などの課題について、オンラインや実際の教室等、複数の手段で学ぶことができるようにしている。この場合、誰が講師となるかということが大きな課題となるが、実際に運営管理に従事している会員等が教壇に立っている。

また、CAPP(Certified Administrator of Public Parking)という駐車場に関する専門知識を有していることを証する「公共駐車場管理者」資格も制定している。これはアメリカで非常に成功しているので、是非日本にも紹介したいと考えている。最近、都市計画の専門家と会合をもったが、誰一人として駐車場に関する専門知識を有しておらず、大学などで学んだ人はいなかった。大学や短大などで、「駐車場学」の講座も提供し始めている。具体的に何を学ぶかといえば、一般公共用駐車場の管理責任者に必要な基礎知識を学んでもらうということである。

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また、我々は5年前から「Parking Matters」(駐車問題はとても重要)という活動を始めている。かつて、インターネットで駐車場に関する検索を行ったら、全てネガティヴな内容ばかりであった。それが現在では、メディアやネットで同様の検索を行うとポジティヴな内容がドンドン出てくるようになってきた。これは、IPIの努力とともに、業界関係者の努力の賜物であると考えている。つまり、駐車場業界の重要性を如何に社会へアピールするかが、「Parking Matters」という活動の最も重要な目的となっている。

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「Parking Matters」について サリバン氏

皆さん、パーティへ行って職業を尋ねられた時、「駐車場関連」と説明したら、恐らく多くの人は業務の内容を想像できないと思う。事業の重要性も理解していないと思う。学校へ通っていたころ、駐車場業に従事したいと思ったであろうか?しかし皆さんは、いま現在駐車場業に従事し、その重要性を充分に理解されている。私の仕事は、駐車場業の役割や重要性を世間に方々に認識してもらい、都市計画家や建築家等に駐車場業に従事する我々の考えを伝え、都市計画や個別の開発計画に反映してもらうようにすることである。皆さんは様々な施設で駐車場を利用すると、その駐車場の問題点などに気付かれると思う。私達の業界が世間からどのように見られているか、これは非常に重要な事柄である。違反駐車キップや違反車輌に取りつけられる輪留め等、更には暗いガレージも安全上問題とされることが多く、「駐車場満車、スペース無し」といった表示は、利用者に非常なストレスを与えてしまっている。「Parking Matters」という活動・コンセプトは、人々の駐車場に対する印象を改善して、その重要性を認識してもらおうということである。

この目的を達成するにはどのようにしていけば良いのか?我々は、記者やレポーターへの啓蒙活動から始めた。一般人へ最初にアプローチするのではなく、オピニオンリーダーとなり得る影響力のある立場の人達へアプローチした。次に、建築家、ビルマネジャー、空港の運営責任者、大学等で決定権を持つ人々や市長、議員などへアプローチを行ってきた。

我々は、「Parking Matters」というコンセプトがダウンタウン再開発成功の為には重要であることを、また都市モビリティーや環境問題への対処、生活の質を高める為には駐車場が重要であると訴え続けた。これらの活動によって徐々に人々の認識が変化してきたのであるが、我々にとって重要な点は、これらの活動を通じて、駐車場業の従事者達が自らの仕事に誇りをもてるようになったということである。

メディアの人々と話す際には、先ず駐車場業界で革命が起きていると伝える。一つは技術革命であり、環境保全にも努力していることを伝える。例えば、技術の発展により、駐車スペースがより早く見つけられるようになれば、環境負荷を押さえることができることとなる。併せて、技術の向上により顧客サービスの改善が図れることを伝える。このメッセージは各国で駐車場従事者が共通してアピールできる事柄であると考えている。

国際連携について ランボー理事長

ここ数年、IPIはどのようにして国際的な連携を図ってきたか説明したいと思う。IPIという名前にはインターナショナルという言葉が入っているが、従来はそれほど力を入れていたとは言えない状況にあり、それを名実ともに国際的なものにしていこうと努力をしてきた。具体的には「世界駐車場協会リーダーズサミット」(GPALS)という国際会議を継続して開催してきた。2012年のアリゾナ州のフェニックスで最初の会合を開いて以来、2013年はアイルランドのダブリン、本年はテキサス州のダラスで開催し、来年はドイツのベルリンで開催する予定である。一年毎に米国内と海外で交互に開催している。ダラスでの会議では、参加団体間の協定的文書も作成することができた。来年のベルリン大会は9月に開催予定であるので、是非日本協会も参加していただきたい。現在GPALSへの参加国は(実際の会議出席の有無は別として)日本を含めて18カ国、それに欧州駐車協会を加えると19団体に達している。アンケートや議論を通じて各国が抱える問題や、行政のスタンス、また関係者へのアプローチなど色々なものが見えてきているが、以下の4点に集約できると思う。

①共通する課題が沢山あること
②技術の進歩は駐車業を変えつつあること
③駐車業への世間の認識は改善しつつあること
④コラボレーションの機会は増えてきていること
これらをベースに各国の協会が共に前進していきたいと思う。

次に国際連携の新たな動きについて説明したい。私自身が理事長に就任してからは、中南米諸国との連携にも注力している。会議でこれらの地域からの参加者と会話を続けていくうちに、益々このような活動を拡げていくべきと実感している。具体的には、中南米諸国との会合を4年前より始めている。第1回はフロリダ州のマイアミ、次はプエルトリコ、3年目はメキシコ、4年目はコロンビアで開催してきた。ブラジルとも協議をしており、今月末にはブラジルで第1回中南米駐車場会議が開催されることとなり、IPIも協賛している。また、メキシコでは駐車場協会が設立されるに至った。協議が始まってから11年目である。今後もこれらの連携を深めて行きたい。

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サスティナビリティ対応(環境配慮)及び今後の課題について コンラッド専務理事

サスティナビリティは米国に於いても重要な課題である。これについて駐車場業における取組を説明しておきたい。IPIとしてはサスティナビリティ対応の施策として達成すべき目標として10の行動項目を定めている。また、IPIの組織について説明した際に少し触れたが、グリーンパーキング委員会というNPO組織がある。6月に環境保全型駐車場認定(Green Garage Certification)という概念をつくり、IPIが認証するという制度を始めた。皆さんが、環境保全に叶う駐車場を実現しようとするときに、必要な条件(クライテリア)が全て規定してある。

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最後に、現在アメリカで何が起きているか少し説明させていただきたい。環境保全、技術、カスタマーサービス、料金精算、ネットとの連携、ビッグデータの活用、セルフパーキング、 自動運転、太陽光を利用した道路の開発、美観を重視したデザインの立体駐車場などの動きがある。本日は内容まで説明する時間がないので省略するが、日本の方々とも議論していきたい。

終わりになるが、来年6月29日から7月2日にラスベガスで開催するIPI総会に是非日本からもご参加いただきたい。

本日はたくさんのことを学ぶことができた。これを機に是非日本の皆さんとも意見交換をしていきたいと考えている。

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以上