札幌駐車協会創立50周年記念講演会レポート

これからの駐車場 ~エリアマネジメントについて~

日本大学名誉教授
高田 邦道 先生

平成29年10月19日開催された秋季駐車場研修会において、札幌駐車協会創立50周年記念行事として、我が国の駐車場学の第一人者である日本大学名誉教授高田邦道先生より記念講演がありました。以下、その内容を簡潔にまとめました。
従来、駐車場は付属物という考え方が強かったが、モータリゼーションの進展に伴い、駐車施設のない地区は衰退していった。(特に地方都市の中心部)私の考えるエリアマネジメントとは、特に非幹線道路の地区交通計画や地区交通管理をどのようにしていくかということであり、安全上の問題や駐車問題にとって非常に重要であると捉えている。本日は、エリアマネジメントについて、「1970年~1990年代半ばの欧州都市の都心部再生策」からの観点から、もうひとつは、「附置義務駐車スペースの緩和でどのように街づくりができるか」という観点の2つのアプローチによりお話しさせていただきたい。

1.1970年~1990年代半ばの欧州都市の都心部再生策について

<欧州都市再生策の3つの基本的考え方>
①市役所、商工会議所、商店会、各店舗、ビル等が相互に協調連携を図ること。
②10年毎に新しいプロジェクトを実施すること。
③そのプロジェクトを支えるのが交通インフラの整備である。

<欧州の都市再生と駐車政策について>
モータリゼーションの時代に入ると、商業者の生活改善が進んだ。しかしながら、商業地は子供にとってあまり好ましい環境でないため、生活の拠点は郊外へと移って行った。それに伴い、中心商店街の閉店時間が早まることにより、結果、夜間の治安悪化等を招き、商店街が衰退していった。所謂「シャッター商店街」となってしまった。
→これは欧州に遅れること30年、今、正に日本各地で起きている現象である。
モータリゼーションの進展に伴い、都心再生と駐車政策には非常に大きな関わりがあるといえ、併せて郊外の住宅地の自動車管理計画策定も対応が必要となってきた。この一体計画として考え出されたのがLRT(Light Rail Transit)とかP&R(Park & Ride)用駐車場、トランジットモール等の導入である。
*LRT: 郊外は高速走行のために駅間を長めにとり、都心部では路面電車のように低速走行のために駅間を短くして徒歩交通と連絡した軌道システムのこと。
*トランジ ットモール: 電車、タクシー、移動制約者用車両等に限定し、中心部に入ることができるという、一般車両の締出し交通対策のこと。

<欧州駐車場事例の紹介>
①コベントリー(イギリス)
都心部の商業施設の屋上を駐車場とし、階段を下りるとすぐに商店にアクセスできるようにした。また、都心部から400~500m離れた都心周辺部では、低料金駐車場をつくり、都心商業地までの距離の違いによって駐車料金に差をつけた。

コベントリー

コベントリー(イギリス)

コベントリー(イギリス) 都心部から4~500m離れた低料金駐車場

コベントリー(イギリス) 都心部から4~500m離れた低料金駐車場

②ジュネーブ(スイス)
景観の配慮から駐車場を湖底につくった。約4000台収容でき、斜め駐車をさせることにより、逆走防止対策を講じた。日本の駐車場は殆どが効率重視の直角駐車であるが、逆走による事故の要因のひとつとなっている。

 

ジュネーブ

ジュネーブ(スイス)

ジュネーブ1

ジュネーブ(スイス)

 

駐車形式と逆走

駐車形式と逆走

 

③ディファンス(フランス・パリ)
業務地区と市場が一体となっていた場所を再開発し、市場を郊外移転させ、歩車分離を図り、安全且つ快適な歩行空間をつくった。地上レベル、地下1~2階を道路、鉄道、駐車空間として開発し、歩行レベルを人工地盤上(3階)に設けた。

 

ディファンス(フランス・パリ)

ディファンス(フランス・パリ)

ディファンス(フランス・パリ)1

ディファンス(フランス・パリ)

ディファンス(フランス・パリ)2

ディファンス(フランス・パリ)

 

④エッセン(ドイツ)
工業地帯の中心都市で、重工業不況で都心人口が減るばかりでなく、都心への買物客も減った。その回復策として歩行者専用街路をつくった。都心に隣接した工場跡地に街中ニュータウンを建設し、買物客を確保した。駐車場は石油メジャーがガソリンスタンドに付随して顧客への利益還元として提供した。

 

エッセン(ドイツ)

エッセン(ドイツ)

エッセン(ドイツ)1

エッセン(ドイツ)

エッセン(ドイツ)2

エッセン(ドイツ)

 

⑤フライブルグ(ドイツ)
「トラフィックセル」という車締出し策を実施し、都心環状に沿って駐車場を配置した。都心中心部にはLRT、タクシー、身体障害者車両のみこの中に入れる「トランジットモール」になっている。自家用車は周辺のP&R駐車場に停め、無料とした。

 

フライブルグ(ドイツ)

フライブルグ(ドイツ) 人口約23万人

フライブルグ(ドイツ)1

フライブルグ(ドイツ)

 

フライブルグ(ドイツ)2

フライブルグ(ドイツ)

 

 

 

⑥パリ(フランス)
かつてパリ市内では路上駐車は自由であった。道路に溢れかえった車対策として、幹線走路の地下空間に99カ所の駐車場整備を決定した。地下駐車場の整備は入札方式で、委託された民間事業者は33年間使用でき、その間は駐車料金等の管理運営は自由にできるものとした。(例えば広告収入で駐車料金を安くする等)また、マイナーな道路を車と人の出入りのために壊して、駐車場にするという大胆な施策も取り入れた。

パリ(フランス)

パリ(フランス)

パリ(フランス)1

<欧州事例からみた自動車交通と公共交通システムの整備水準向上の関係について>
これは、欧州事例を私なりに整理し作成した図である。

30

公共交通
自動車保有税とかガソリン税等の利用税により、自動車交通に負荷をかけることにより、公共交通を整備し、そのレベルを上げて上手いバランスをつくろうと考えた。鉄道、LRTバス等により運輸連合をつくり、手を結び、例えば1時間以内であれば何回乗り換えても同じ料金といった利便性の高い仕組みをつくっていった。LRTを軸にP&R駐車場等をつくり、一体化計画をつくっていったということである。
→このように欧州の多くの都市では、1970年代に都心部がスラム化し、空洞化していた。そこで、都心部への車の乗り入れをどのようにするか検討してきた。そこにしっかりと対応できた都市が現在再生できているということができる。足の確保と同時に安全・安心な街は人が集まり、賑わうのである。

 

<日本で地区交通計画管理ができない訳>
日本でなかなかLRT導入ができない理由は、道路法と鉄道法の二つの異なる法があるからである。郊外の場合は郊外電車扱いとなるから鉄道法、都心に入ってきたら路面電車扱いになるから道路法の対象となるという課題を抱えている。よって日本ではLRTではなく、基本的にはLRV(Light Rail Vehicle)である。その他にも都市計画、地方分権、交通行政にも様々な課題があり、一体的計画ができない問題を抱えているのが現状である。では、次に、こうした一体的な地区交通計画管理に課題を抱えている中で、駐車問題をどう考えていくべきかを述べてみたい。

<日本の駐車政策の変遷> 
1990年のバブル絶頂期には、東京の路上に約3万台の路上駐車が発生し、問題化していた。そこでこれまでの駐車政策を改善すべく招集がかかり、基本計画~整備計画~実施計画までの策定に携わった。30分以上の路上駐車を路外で受け入れるために、二分の一の補助金を出し、全国各地に駐車場を整備した。
この駐車政策の修正時に取り残されたものは、「大規模建物の駐車スペースの余剰問題」と「路上の荷捌き車問題」である。これは後述する附置義務の緩和に繋がった一方、路上の荷捌き車問題は、今問題化しているところである。

駐車政策の変遷

 

2.駐車場附置義務駐車スペースの緩和でどのように街づくりができるか

<駐車場附置義務駐車スペースの緩和について>

附置義務駐車スペースの減免の背景には、特区等において容積率の緩和により、従来の建物の数倍の床面積をもつ大規模建築物の建設を可とした結果、最少基準である附置義務駐車スペ
ースが供給過多となるケースが多くなり、その対応として取られた措置が、「附置義務駐車スペースの緩和」である。緩和によるメリットは、申請建物においては建築コストの削減や床の他用途利用による地域貢献(荷捌き車両や自動二輪車対応等)が挙げられる。一方、地域にとってはその地域での駐車需給バランスの調整や景観等の整備が可能となることが挙げられる。

①駐車施設の附置に関する施策(東京都駐車場条例改正)
こうした状況を受け、東京都は平成14年3月、駐車場条例を改正し、主に①荷捌き駐車施設の附置義務を新設、②地区特性に応じた附置義務台数の設定を可能とした。(地域ルールの導入)
②大手町・丸の内・有楽町地区 地域ルールについて
三菱地所より、駐車場地域ルールの設置と運用の相談を受け、5つの条件付で引き受けた。1~4についてはほぼ完全に運用されているが、5の路上駐車の排除については、改善途上の部分
もある。(特に荷捌き車の桁高、タクシーの車寄せの問題)
千代田区ではこの地域ルールを活用するために、平成15年2月、駐車場整備計画を改定し、この地域ルールを大手町。丸の内・有楽町地区に適用した。また、大丸有地区では地域ルール
導入に当り、行政関係者と地元委員及び学識経験者により組織される協議会で審査する仕組みを構築した。
大丸有地区・地域ルールの引受条件

大丸有地区地域ルール対象地区(事例)

大丸有地区地域ルール対象地区(事例)

大丸有地区の地域ルール運用の仕組み

大丸有地区の地域ルール運用の仕組み


③その他の導入地区
渋谷地区:駐車スペースの共同利用化
渋谷地区では、大規模建築物に従来の附置義務駐車制度による駐車スペースを準備してもらい、減免できる台数を決め、その上で減免されたスペースを共同の隔地用駐車スペースと地区内に必要な身障者用のスペースに活用した。その他では、八王子地区、新宿(東口地区、西口地区)、港区、中央区で進めている。
<駐車場エリアマネジメントによりどういうことができたか?(大丸有地区事例より)>

 

丸の内地下駐車場建設以前の行幸通り

丸の内地下駐車場建設以前の行幸通り

 

丸の内地下駐車場の断面図

丸の内地下駐車場の断面図

 

プロムナード(行幸通り地下1階)

プロムナード(行幸通り地下1階)

行幸通りの完成図

行幸通りの完成図

丸ビルと新丸ビルの駐車場を時間貸しとして、一般開放することにより、行幸通り下の駐車場の1層分を減らして、地下1階に歩行者用通路としてプロムナードをつくり、地下2階を駐車場としてはどうかと提案した。地上部の行幸通り中央部には馬車道も新しく整備され、駅前広場ができれば完成となる。駐車場の有効活用により、地下の歩行者専用空間と地上部の環境整備を併せて実現した事例である。

また、丸の内仲通りのビルは現在次々に再開発で整備されているが、隣接のビルと地下車路により駐車場の行き来ができれば、そのビルの附置義務が減免されるという仕組みをつくった。その結果、仲通り地区ビルの殆どの時間貸し駐車場は地下で繋がっている。これも地上部に将来快適な歩行者用空間や自転車用道路をつくるための準備であり、現在社会実験を行っているところである。

後半は、「附置義務の減免駐車場からまちづくりへの方法」を示したが、地域のマスタープランの下、官民がそれぞれの役割を果たす中で駐車場を整備することが望ましいと言える。前半の欧州都市の事例、後半の大丸有地区の事例からもお分かりのとおり、駐車場をどう整備し、どう繋ぐかによって、道路管理、更には地区整備され、その地区のまちづくりを変えることができるのである。但し、これは一律にできるものではなく、地域特性を踏まえた上で、それぞれの地域・地区に合った対応(知恵出し)をすることが肝要なのである。

 

<丸の内仲通り>

<丸の内仲通り>

<歩行者開放時の仲通り>

<歩行者開放時の仲通り>

 

(本日のまとめ)

 

「たかが駐車場、されど駐車場」

番外編 <これからの駐車場を考える上でのキーワード>

ETC2.0→ これからの駐車場には不可欠なもの、駐車料金の弾力的運用と共に、鉄道乗車との連携結合を如何に図れるかがキーポイントとなる。

マンションの駐車場→空きスペースが増え続けており、今後の駐車場問題のひとつである。

自動運転→ カーシェア、ロボットタクシー、携帯アプリによる配車サービス大手のウーバー等の拠点としての駐車区画の活用策も駐車ビジネス上重要である。バレットパーキング・システム→ 車寄せの整備が課題となろう。駐車施設を持たない地区での活用方法もある。例えば、伝統的街並みを持つ地区の街おこしの手段ともなり得る可能性がある。

貨物車→ 駐車業界における今後の大きな課題、積み下ろしヤードを整備し、物流の合理化を図ることが大切

<質疑応答>
Q: 人口30万クラスの地方都市において、今後コンパクトシティ政策実現のために、お尋ねしたい。
① コンパクトシティ政策の推進にとって、地方都市の街なかのコインパーキングは阻害要因とはならないか?
② 今後、公共交通と車のバランスが大切と考えており、そのひとつにコミュニティサイクルもあるが、それ以外の交通手段は何が考えられるか?コンパクトシティの中ではどういった交通システムが理想か?
A:① コインパーキングというのは、空き地利用の手段のひとつで、採算が取れるからコインパーキングがある訳で、その都市のポテンシャルが上がり、土地の価格が上昇すれば、コインパーキング業態は成立しなくなる。
② 日本では、公共交通は採算という面では成立は難しいのではないかと思う。先程の欧州都市事例のように他から金を投入すれば成立すると思うが、日本の多くの地方都市において地域の交通手段としての公共交通は、採算ベースに乗せることは実際には難しいのではないかと思う。ひとつの目安ではあるが、人口100万人都市では地下鉄が成立し、30万人未満都市では自動車交通だけで成立するのではないかと思う。問題なのは日本で多い30万~100万の地方拠点都市にどう対応していくかである。