これからの駐車場ビジネス(第4回)コンパクト&ネットワーク政策~各地で進む立地適正化計画の作成 札幌市の立地適正化計画について~

一般社団法人全日本駐車協会

連載第4回は、これからの都市の在り方を規定し、駐車場ビジネスにも大きな影響を与えると思われる立地適正化計画について、政令指定都市のなかで真っ先に計画を纏められた札幌市のご担当より、秋季研修会においてご講演いただいた内容を紹介します。

講演ご紹介の前に、立地適正化計画について改めて整理をしておきたいと思います。国土交通省では、少子高齢化・人口減少時代に入り、従来通りのやり方では都市の活力や人々の生活レベルを維持することが難しくなることから、「コンパクト&ネットワーク政策」を掲げて、まち機能の集約化や拠点の整備、公共交通ネットワークの活用などによる移動の足確保等を推奨しています。これらは、平成26年8月に施行された改正都市再生特別措置法に定められており、各都市はそれぞれの課題整理を行ったうえで将来像を自ら描き、今後のまちの在り方を定める立地適正化計画を作成することとなっています。昨年7月時点で全国の112都市が作成・公表をしています。

立地適正化計画の作成・検討

国土交通省資料より

作成作業は、①都市が抱える課題分析と解決すべき課題の抽出、②目指すべき都市構造の検討、③誘導区域等・誘導施設の検討、④目標値等の検討、⑤素案作成、⑥パブリックコメント等の実施、⑦修正等実施、といった手順を踏みながら進められることとなります。(図表右側を参照)

今回、札幌市よりいただいたご講演が、各地で進捗する手続について、会員の方々の理解に資するものとなれば幸いです。

 

<ご講演>

札幌市における立地適正化計画の策定

札幌市まちづくり政策局 都市計画部都市計画課

土地利用係長

梅澤 卓司 様

1.札幌の概況

  • 札幌市は人口194万人(H27)を有し我が国で東京、横浜、大阪、名古屋に次ぐ5番目の都
    市で、北海道内の人口の35%を占めている。面積は1,121㎢あり、東西にそれぞれ40数キ
    ロの幅。そのうち都市計画区域は56,795haの面積であり、25,017haの市街化区域内にほぼ
    100%の市民が暮らす。また都市計画区域外のエリアはほぼ国有林となっている。
  • 札幌の特徴は大変多くの降雪があることで、1月をピークに約7mの積雪量がある。同緯度
    にあるウィーンやサンクトペテルブルグ、モントリオール等の人口100万超都市でも最大3
    m程度であり、この数値は突出している。このため、札幌市は除雪等の雪対策予算を195
    億円(一般会計予算の約2%)という大きな金額をかけている。

日本の中の札幌地勢1

 

 

 

 

 

2.都市づくりの経緯  ~発展に合わせた計画的な街づくり

  • 札幌のまちは1869年(明治2年)に開拓使が設置されたことに始まり、凡そ150年の歴史を有している。自然発生的な都市ではないので碁盤の目状の街づくりがなされ、これが現在の都心部の原型となっている。
  • 当初の75年間ほどは人口もそれほど伸びなかったが、1945年の終戦以降は周辺市町村の合併や本州大企業の進出等により人口が増加し始めた。このような状況への対処として各地で区画整理事業を始め、市街化区域の25%を占めている。

人口の推移

1972年冬季五輪札幌開催

 

 

 

 

 

  • その後、1970年には人口100万を超え、1972年の札幌オリンピック開催をめざし都市基盤の整備が大きく進められた。オリンピックで選手村となった真駒内地区は戦後の区画整理により整備された団地であり、初の地下鉄である南北線はオリンピック前年の1971年に開通し、その後2路線が整備され現在は営業距離48㎞となっている。
  • また、1972年は政令指定都市となった年でもあり、これを機に人口増加に伴い拡大する市街地を計画的にコントロールするべく、「住区整備基本計画」を策定し独自の施策として開始した。その特徴は、縦横それぞれ1㎞、つまり1㎢を居住人口1万人を想定した1住区として、道路、小学校、公園などを適正に配置していくものである。現在までに132住区、面積にして15,000haの整備を行っている。

1972年冬季五輪札幌開催

政令市移行(1972年)後2

 

 

 

 

 

3.都市づくりの基本方向の転換 ~拡大から内側の充実へ

  • その後、90年代後半から2000年代に入ると人口増加も鈍化し、70年代の2割程度になっていったが、その時点で道路、下水道、公園等の都市基盤の整備がほぼ進み、充足状態となる一方で、民間による開発意欲は引き続き衰えない状況であった。
  • そこで、2004年に市として初めての都市計画マスタープランを策定し市街地の拡大から内側の充実へ大きく方向転換を行った。この結果、新たな住宅開発も抑制され市街化区域の拡大は止まっている。

都市づくりの前提等の変化

新たな上位計画と都市マスn改定等

 

 

 

 

 

4.立地適正化計画の検討着手 ~第2次都市計画マスタープランと同時進行

  • 2010年代後半にはいよいよ札幌市も人口のピークアウトを迎えることが明らかとなるなか、2013年に市として最上位計画となる「札幌市まちづくり戦略ビジョン」を策定し、持続可能な札幌型の集約連携都市への再構築を目指すこととした。
  • 更に2016年3月に「第2次都市計画マスタープラン」の策定とその目標の実現に資するものとして「立地適正化計画」を同時に策定した。
  • 適正化計画の策定に当たっては、人口動向解析や都市構造評価などの作業を進めるとともに、市民参加を求め、アンケートやワークショップ等の実施を並行して実施していったが、他の都市での前例が全くない作業であり、幾度となく国土交通省への相談を行いながら取り進める必要があった。これらの作業には、都市マスタープラン見直しの事前作業も含めて策定・公表までに2014年度、2015年度の2年を要している。

策定経緯

 

 

 

 

 

5.立地適正化計画の概要
⑴市街地の区分、⑵居住誘導の考え方、⑶都市機能誘導の考え方、それらを踏まえた⑷各地域の設定並びに施設の整備等について順を追って説明したい。

⑴市街地の区分
第2次都市マスタープランと整合させて、住宅市街地を下記の3区分としている。
①複合型高度利用市街地:環状通内側と地下鉄沿線
②一般住宅地     :複合型高度利用市街地の周辺
③郊外住宅地     :郊外の低層住宅地

また、交通結節性や機能集積状況を勘案のうえ主要な拠点として下記の3区分を設定。
①都心部       :札幌駅、大通、すすきの等
②地域交流拠点    :主要な地下駅、JR駅等の周辺
③高次機能交流拠点  : 産業や観光、文化芸術、スポーツなどの高次な都市機能が集積する地域

②及び③の拠点は合計29か所であり、③は市街化調整区域内にも設定している。

都市づくりの理念、基本目標等居住誘導の基本的な考え方

 

 

 

 

 

⑵居住誘導の考え方
①人口の動向、②市民の意向、③土地利用の状況、④公共交通の利便性、⑤防災の5つの視点から調査を実施のうえ検討を行った。

①人口の動向について

icon-check 総人口はほぼ減少に転じつつあり、20年後は△6%となる。

icon-check 年少人口と労働人口は減少し、老年人口は増加する。

icon-check 人口密度は20年後も各市街地区分ともに概ね維持される。

icon-check 中央区への人口集中が顕著である一方、地下鉄沿線でも人口減少を見込まれる地域がある。

icon-check  エリアによっては、加速度的な人口減少によりコミュニティ維持が困難となる懸念がある一方で、郊外部では開発時期の古い地域において老年人口の増加がみられるものの、その後は横ば   い或いは減少に転ずる。

②市民の意向について

icon-check 多くの市民は買い物・通院・公共交通などの利便性を最も重視している。

icon-check 市民の8割が現在居住している地域に住み続けたいと考え、若い層に多い市内転居意向者も含めると、9割が市内居住を希望している。

③土地利用の状況について

icon-check 青空駐車場などの低未利用地が約550haあり、旧耐震構造の共同住宅も地下鉄沿線を含めて建替え更新等が見込まれる。

④公共交通利便性について

icon-check 地下鉄等の鉄道駅と後背圏からのバスネットワークが整備され、市街化区域のほとんどの区域でこれらに徒歩でアクセス可能となっている。

⑤防災について

icon-check 市街地南西部に急傾斜地があるが、これらは土砂災害警戒区域等に指定済である。

居住誘導の基本的な考えかた6まとめ

 

 

 

 

 

これらの実態把握を踏まえて、居住誘導は以下のように整理した。

① 複合型高度利用市街地は、人口分布の偏在を是正しつつ、人口密度の維持・増加を図るため、土地の高度利用を基本とし、集合型の居住機能が集積することをめざし、立地適正化計画上の「集合型居住誘導区域」として設定する。
→ 地下鉄駅周辺等の公共交通利便性の高い地域が該当

② 郊外住宅地の一部については、人口減少が進む中でも、生活利便性・交通利便性を確保しつつ、持続可能なコミュニティ形成をめざし、「持続可能な居住環境形成エリア」として設定する。
→ 加速度的に人口減少が進む地域が該当

⑶都市機能誘導の考え方
市民生活を支える機能として、①日常利便機能、②公共サービス機能を、魅力を向上させる機能として、③地域ごとの魅力を高める都市機能、④市全体の魅力を高める都市機能に分けて実態把握及び検討を行った。

 

都市機能誘導の基本的な考え方都市機能誘導の基本的な考え方1

 

 

 

 

 

 

①日常生活上の利便について

icon-check 生活圏半径800m圏内(いわゆる徒歩圏)に利便施設が整備されているか否かを調査したところ、医療施設、商業施設、福祉施設、幼稚園、保育所などの子育て関連施設は、ほぼカバーされている。

icon-check これらを国土交通省による都市構造評価ハンドブックに当てはめてレーダーチャートにして分析したところ、幸いにして極端な弱みは見受けられない結果となる。

icon-check 分析を踏まえ、今後一層の高齢化を考えるとこれら利便施設は現状通りの徒歩圏内に立地していることが好ましく、郊外においても今後20年間は人口密度が概ね維持されるため、市街化区域全体での立地を図っていくことが望ましい。

②公共サービスについて

icon-check 公共サービス機能について考慮すべき点は、人口減少と少子高齢化という大きな流れを踏まえ、効率的な行財政運営と多様化する市民ニーズ、地域ニーズへ対応することである。

icon-check これに関しては、2013年策定の「札幌市まちづくり戦略ビジョン戦略編」並びに翌14年策定の「札幌市市有建築物の配置基本指針」において定められており、区民センターや図書館等の行政区単位で配置される施設については、複合化を図り、都心・地域交流拠点における誘導施設としていくこととしている。

 

都市機能誘導の基本的な考え方2

都市機能誘導の基本的な考え方3

 

 

 

 

 

 

③地域ごとの魅力を高める都市機能

icon-check 各交流拠点の地域特性を踏まえながら、それぞれの在り方を検討中である。

icon-check その過程において考慮すべき要素として以下のものを挙げている。
⑴多様な都市機能の集積(いろいろな機能があること)
⑵公共交通利便性・回遊性の向上(車がなくとも行きやすく、歩き回りやすいこと)
⑶様々な交流や賑わいが生まれる場の創出(集まれる空間があって、活用されていること)
⑷地域資源の活用・発信(その地域しかない魅力があって、それをアピールすること)

④市全体の魅力を高める都市機能について

icon-check 国内での都市間競争が激しくなり、かつ国際競争力の向上に資する高次都市機能を有する施設や教育文化施設を都心誘導施設として設定することとした。

icon-check この検討を踏まえ、都心部を都市機能誘導区域、地下鉄駅の拠点駅周辺を都市機能誘導区域として、施設整備を進めることとした。

 

各区域及び誘導施設の設定

パブリックコメントの結果

 

 

 

 

 

 

⑤パブリックコメントの実施

icon-check 計画公表前の2016年1月から2月にかけて、パブリックコメントを実施した。13人、36件の意見がでる。

icon-check 内容は、制度面や他の計画などとの違いがよく分からないといったもの、あるいは、コンパクトシティ化の趣旨は理解できるが郊外に住みたい住民の希望にも応えてもらいたいといったものであった。制度面等については説明や表現を修正するとともに、郊外居住の希望については居住環境の持続も考慮していく旨、回答している。

6.計画策定後の状況並びに取組事例

  • 適正化計画公表後の開発行為並びに建築行為の届出は118件(~本年7.31時点)ある。また、計画の進捗を促すべく地域交流拠点の整備する際に、一定条件ものもと容積割増を認める運用指針も昨年9月に策定している。
  • 具体的取組事例の紹介

拠点の特性に応じたまちづくりの展開拠点の特性に応じたまちづくりの展開1

 

 

 

 

 

①真駒内地区
閉校となった駅前小学校の交流施設へのリノベーション実施と駅前土地利用の再編を行っていく。
②篠路駅周辺
鉄道高架化と区画整理実施による拠点としての整備。供用開始は2025年ごろを目指す。

 

拠点の特性に応じたまちづくりの展開2拠点の特性に応じたまちづくりの展開3

 

 

 

 

 

 

③新さっぽろ地区
駅周辺市営住宅の建替・集約化により生じる余剰地を活用した拠点機能向上を図る。対象地は公募提案により売却の予定。
④もみじ台地区(郊外住宅地)
人口減少かつ高齢者増となる区域で、閉校となった小学校を学校法人や社会福祉法人へ売却し、学習センター、放課後児童育成事業の実施並びに、デイサービスセンター、訪問介護事業所としての利用が始まっている。

<質疑応答>
Q: ごく僅かな都市しか適正化計画が策定されていない状況で、政令指定都市として真っ先に計画を取りまとめられた理由は?
A: 適正化計画の制度が出来た時点で、第二次都市計画マスタープラン作成に着手していたこと、また第一次マスタープランで既に市街化区域拡大を止める方針を打ち出して施策を始めていたことが、コンパクトシティの考え方と合致していたこともあり、早期策定に繋がった。
Q: コンパクトシティ政策の遂行と立地適正化計画策定にあたり、地価はどのように勘案したのか?
A: 地価は、市内平均で@18万円/㎡、人口減少が顕著なエリアでも@10万円/㎡程度となっており、極端な差がある状況ではない。計画策定にあたっては地価だけで判断をしていくのは難しい面はあるものの、適正化計画と第二次総合計画マスタープランの見直し検討部会を設置しており、そこで取り扱っていくこととしている。
Q: 人口減少への歯止め策及び、新住民の取り込み施策は具体的にどのようなことを考えているか?
A: 人口減少を少なくするためには、多様な世代が地域に流入していくことが重要である。具体策は検討部会で議論しているところである。
Q: コンパクトシティ化を進めるうえで、札幌市は人口減少と空き家の問題にどう対処してく考えであるか?
A: 空き家問題については、有識者会議で議論するとともに補助金を設けるといった対策は行っている。しかし、ようやく人口減少が始まったところなので他都市でいわれているような危険家屋が目立つといった状況にはない。
Q: 適正化計画では公共交通の活用がうたわれているが、地方都市において現実にはクルマの役割は大きいと考える。今後自動運転技術が普及した場合にどのように適正化計画に反映していく考えであるか?
A: 自動車の移動分担率が高いのは事実である。駐車場関連施策では、付置義務条例の見直しを進めている。自動運転については、普及段階になるとクルマへの考え方は大きく変わっていくことになると思う。但し、札幌は雪が多いことから他の地域よりも対応すべき課題が多く、普及は少し遅くなるのではないかと推測している。
Q: 札幌市はエリアマネジメントの先行事例としてよく取り上げられているが、今回の計画策定にあたりどのように反映されたのか?
A: エリアマネジメントに関しては、国交省や他都市からヒアリング等を受けている。適正化計画でも地域交流拠点の活性化については、エリアマネジメントを通じた官民連携に大いに期待しているところである。但し、行政主導では難しい面もあり、民間の方々にも主体的に活動していただくことが重要と考えている。