情報発信「アンテナ」(第3回)

これからの駐車場システムにおける研究テーマ
               三菱プレシジョン株式会社
               営業本部 社会・交通システム事業部
               駐車場システム営業部 部長 稲川 宏朗

■まえがき
 駐車場ビジネスを取り巻く環境は通信技術等の発展に伴い、日々進化しております。また、法改正などにより様々な対応を迫られる中、これからの駐車場システムにおける研究テーマとして、第1章では平成30年7月に国土交通省が発表した「まちづくりと連携した駐車場施策ガイドライン」を踏まえて、弊社が考えるまちづくりへの貢献が可能と思われる将来の駐車場システムを整理しました。
 また、ここにきて活発な動きを見せ始めているETC対応駐車場の最新状況を説明します。第2章では将来の駐車場システムのうち、ETC対応駐車場以外の内容について、いくつかピックアップして紹介します。いずれも、これからの時代を創るために取り組んでいる課題ですが、ご高覧いただければ幸甚です。

第1章

1.まちづくりと連携した駐車場施策ガイドラインから見た将来システム
 国土交通省は「まちづくりと連携した駐車場施策ガイドライン」として駐車場施策の検討ポイントと課題解消のキーワードを示しており、これに対し、今後まちづくりへの貢献として提供されるであろう将来の駐車場システムを弊社が取り組むべき課題として結び付けてみました。
 その中で、駐車場のETC利用はこれまでの駐車場システムを大きく変えていく可能性があり、国の方針を受けて、いよいよ実用化が近づいてきている技術及びサービスであることから、その検討状況について以下に紹介します。

2.ETC駐車場の検討推移 
 ETCの駐車場での利用検討については、平成25年6月14日に閣議決定された『世界最先端IT国家創造宣言』の中で「駐車場等、高速道路以外の施設でもETC等のITS技術が利用可能となる環境を整備し、利便性の向上を図る」という方針が示されました。その方針に基づいて国土交通省の指導のもと検討が進められ、民間駐車場等においてETCカードを用いた決済の安全性を確保する技術として「ネットワーク型ETC技術」を活用した試行運用により、技術面・運用面について検証し、改善を図ってきました。また、令和元年11月11日に国土交通省にて、「ETC多目的利用システムの利用に関する要綱」などが制度制定され、ETC駐車場を市場投入すべく進められています。

出典:国土交通省ホームページ

出典:国土交通省ホームページ

2.1 ネットワーク型ETC技術
 ETC駐車場にて利用するネットワーク型ETC技術は、遠隔地に設置したセキュリティ機能を有した情報処理機器と駐車場等における複数の路側機を通信ネットワークで接続します。路側機で取得した情報を集約させて一括処理することで、ETCカードを用いた決済の安全性を確保する技術です。従来実施されていた、サービス事業者毎に利用車番号の事前登録が必要であった「利用車番号サービス」とは異なり、高速道路でのETC利用と同じく事前登録することなく料金決済を可能とすることを目指しています。
 ETC利用において駐車場と高速道路との違いは、周辺歩行者等の安全確保のために「一旦停止」していただきます。NON STOPは担保しておりませんのでご留意願います。

2.2 ネットワーク型ETC技術を用いたETC利用の試行運用
 ここでは、弊社が関わってきたETC多目的利用の試行運用の実施結果について紹介します。ネットワーク型ETC技術によるETCの多目的利用サービスに向けて、セキュリティが確保された安全なシステム運用の目途がついたことから、駐車場とカーフェリーターミナルで試行運用を実施しました。

2.2.1 駐車場におけるETC多目的利用サービスの拡大に向けた試行運用(※1)
 平成29年10月から静岡市において、平成29年11月から名古屋市
において一般モニターを対象に駐車場から送信される複数の暗号化
されたETCカード情報の復号化を集約して処理する試行運用を実施
しました。この試行運用により復号化処理して各クレジットカード
会社との決済処理ができることを確認し、サービスタイム(車両
検知からゲート開までの時間)の短縮処理も可能となりました。

2.2.2 カーフェリーにおけるETC多目的利用サービスの試行運用(※2)
 平成31年3月から八戸フェリーターミナルにおいて運送事業者を対象としたフェリー乗船における手続き業務の簡素化を目的とした試行運用を実施しました。主な試行内容は以下の通りです。
 ⑴運送事業者による事前の乗船予約
 ⑵車両が乗船用駐車場入口到着時に、ETC車載器の車検証情報などを取得
 ⑶システムが車載器から取得した情報と予約情報をもとに乗船申込書を自動印刷
 ⑷運転手は自動印刷された乗船申込書を確認し、提出
 ⑸フェリー会社が、乗船券を発券
 ⑹乗船時に、ETCカード番号などを取得し、乗船を確認
 ⑺ フェリー会社は1カ月分のフェリー乗船料金をまとめて、運送事業者へ請求し、運送業者は
   当該料金を振込
 ⑻ NEXCO3社が発行するETCコーポレートカード(クレジットカード会社が発行する以外のETC利用
   を前提とした大口・多頻度割引制度のために発行するカード)も対象として模擬決済を実施。
 ※⑵⑶⑷⑹⑻項の試行内容が現行の乗船手続きからの変更箇所。

 上記試行運用は、利用者による乗船手続の簡素化による利便性向上(運転手が乗船申込書の記入や車検証提示を省略)、一方でフェリー会社は乗船手続の簡素化による業務効率化(予約情報と乗船申込書、車検証情報の照合作業の削減)とクレジットカード決済による乗船料金の請求回収業務(模擬決済で確認)の効率化を確認しました。
 この試行運用で取得した技術等は、一般駐車場事業でも活用できるため、駐車場予約システムでの適用や車検証情報(車両の大きさ、ナンバープレート情報など)取得による機械式駐車場との連動及び月極顧客への一括請求業務等、様々なシーンで活用できると考えております。
 ※1 駐車場試行運用
  協力駐車場 新静岡セノバ駐車場、名鉄協商パーキング藤が丘effe
  参加企業  沖電気工業㈱、㈱青菱コミュニティ、ソニーペイメントサービス㈱、中日本高
        速道路㈱、日本工営㈱、三菱プレシジョン㈱、㈱メイテツコム、
        ドライブメディア㈱(事務局)

 ※2 カーフェリー試行運用
  協力会社 (公財)青森県フェリー埠頭公社、川崎近海汽船㈱、テーオー運輸㈱
  参加企業  沖電気工業㈱、㈱オリエントコーポレーション、ソニーペイメントサービス㈱、
        中日本高速道路㈱、中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋㈱、
        三菱プレシジョン㈱、㈱メイテツコム

 3カ所での試行運用後に実施したアンケート調査結果によると、「便利で楽になった」というご意見をいただいた一方で、「通信が完了したのか、運転手から把握できないため、正常通信できたことを知らせる機能が必要」というご意見をいただきました。そのため、正常通信をお知らせする機能の導入などを検討しています。試行運用の実験場所を提供いただいた協力駐車場並びに協力会社様、クレジットカード会社様、協力いただいたモニターの皆様にはこの場を借りて、改めてお礼申し上げます。

2.3 ETC駐車場の実現化に向けて
 試行運用を踏まえて技術面・運用面について検証・改善し、また、国土交通省にて「ETC多目的利用システムの利用に関する要綱」が制定され、いよいよETC駐車場を市場投入すべく環境が整ってきました。
 実用化に向けては、実際に決済処理及び業務システム等を統括する組織を立ち上げる必要があります。現在その組織づくりが行われているところです。その一環として、ETCカード発行クレジット会社と運用方式・経済条件面・その他契約の建付けなどの調整も併行して行われております。
 先ずは、予め利用者を登録する事前登録によるオーソリ方式でのサービス開始を目指すという基本合意に至っており、2020年度中のサービス開始に向け、最終調整中です。

 事前登録によるわずらわしさが利用者によるデメリットになります
が、駐車場会社等のホームページや場内ポスターから登録用Web画面
に移行し登録し、一度登録すれば当該登録により定められた全ての
駐車場でサービスが受けることが可能となります。

 また、事前登録方式とすることによるメリットもあり、事前予約
システムとの連動や入場時に利用者のスマホへQR(駐車場利用証明
書)を送り、これにより買い物・食事などによる駐車サービス付与を
受けることも可能となります。

 ETCカードを発行しているクレジットカード会社とのシステム連動により、クレジットカード情報とETCカード情報が紐づけされるシステムが構築されると利用者による事前登録なしで駐車場でのETC利用が可能となります。この場合、独自に駐車サービス付与を考えねばなりませんが、利用者による購買方法(ウォークスルー決済;Amazon Go、SuicaのTOUCH TO GOなど)が変化し、車両に搭載されているETC車載器が2.0対応(カーナビと連動してETCアンテナからユニークな音声や映像を送出できる)に置き換わっていくなか、その進展に合わせた方式を取り込んで行くことが重要であると考えております。
 これからの駐車場システムは周辺システムと連携していくことにより更に利便性や効率性を増していくと考えております。駐車券発行機や全自動精算機を不要とするような駐車場システムは近い将来誕生します。我々は潜在的需要を発見し、お客様のニーズに応えたシステムを提供していくことが責務であると考えています。第2章では、将来システムの一部を紹介させていただきます。

第2章

1.駐車場の将来システム
 駐車場システムは独自の技術も重要ですが、通信システムなど外部技術の革新により進化していきます。駐車場の将来システムは、通信インフラの進展や規制緩和などによりその進化を更に加速させると考えております。駐車場システムのIoT化(インターネットと「もの」を繋げる:Internet of Things)が進み、通信インフラとして5G(第5世代移動通信システム:5generation)サービスが提供されていくため、現時点であきらめていたスマホによる運用業務やサービスなどを容易に叶えてくれるかもしれません。5Gは ⑴高速大容量通信 ⑵超信頼・低遅延 ⑶多数同時接続 を可能とします。よって、駐車場に設置されているすべての設備(機器)がインターネット接続されることにより新たな利用者サービスや監視・管理業務の効率化など駐車場の価値向上に寄与していくと考えております。
 また、5Gにより①B2C(企業と一般消費者の取引)やB2B(企業間取引)といった形態が、B2B2X(通信事業者を介した取引)になり、②SaaS(インターネットを通してサービスを届けるサービス)やMaaS(自動車を使うサービスを定額制で売るサービスなど)が台頭し、③駐車場機器もエッジコンピューティングされ、管理室等に設置された管理計算機(PC)が集中管理しなくても、スマホですべての情報が確認できる時代が到来すると考えています。このような流れを受けて、駐車システムは大きく変容していくものと思われますが、ユーザー注目度が高いシステムを3点ほどご紹介いたします。

2.ビッグデータの利活用
 クルマでの来場が多い商業施設などでは、クルマの駐車場利用
状況と買い物履歴をリンクして蓄積し、動向分析することにより、
駐車場の予約(駐車スペース確保)と連動したり、テナントによる
販売戦略等に活用いただけるようになります。
 ● 店舗に備えたタブレット型認証端末の活用を拡大することに
   よって、来場者の消費動向は利用者の属性とともにデータ
   ベース化され、運用を継続することでビッグデータとして
   蓄積されます。
 ● 来場者の動向分析によりテナント、ビル全体、地域の販売
   戦略構築に役立てることを可能とします。

3.ダイナミックプライシング
 ダイナミックプライシングとは、駐車場利用者の需要と供給に
応じて価格を変動させることができるシステムです。駐車場の空き
状況をカーナビやスマホに配信。混雑状況に応じた変動型駐車料金
を導入します。
 駐車場の満/空情報に加え、状況に合わせた駐車料金を表示することにより、利用者の誘導を促します。
 ● 目的地から少し離れた場所、雨・雪など入場者の少ない日の料金は少し安価に設定するなどの運用
   で、ニーズにマッチした利用方法が提供されます。
 ● カーナビに目的地付近駐車場の満空状態・料金を表示します。これにより、混雑駐車場への一極
   集中を回避させ渋滞を抑制し、効率的な車両誘導を行います。

4.自動バレーパーキング
 自動バレーパーキングでは、駐車する際に運転手に代わって自動運転の技術を活用します。具体的には、指定のドロップオフゾーンに車両を停めて降車し、スマホなどから駐車を依頼すると、管制センターなどが走行経路や駐車場所を特定して車両に配信し、その指示に従って車両は低速で自動走行し駐車します。出庫の際も指定のピックアップゾーンなどからスマホなどで出庫を依頼すると、管制センターなどから指示を受けた車両がピックアップゾーンまで自動走行し停車します。経済産業省、国土交通省および日本自動車研究所(JARI)の動向にも注視し、利用者の利便性、場内安全性確保を第一に自動駐車サービスの実現を目指しています。
 ● 自動運転車両と連携して自動駐車が可能な駐車場へ、いち早く進化することを目指しています。
 ● 指定領域であれば自動運転を可能とするレベル4車両やMaaSと連携したコネクテッドカーの普及状
   況と連動して実現化されていくと考えています。

■最後に
 駐車場システムは近い将来、IoTや5Gの台頭により大きく変革していくと考えられます。
 ⑴高速大容量通信 ⑵超信頼・低遅延 ⑶多数同時接続 が可能とするシステムは未来型駐車場システムを実現させます。データ処理についてもAIが処理するということが現実的になりつつあります。変化とは人生の法則であり、過去と現実しか見ない人は確実に未来を失うと言われますが、新技術がもたらすリスク「プライバシー、スコアリング、地域格差など」対策も忘れず、過密するであろう通信技術も確認しながら実証実験を行いつつ、システム提供していきたいと考えております。

以上