令和元年秋季駐車場研修会講演議事録
令和元年秋季駐車場研修会 講演議事録(令和元年10月17日)
「まちづくりの視点に立った
駐車場政策の展開」
金沢市都市政策局交通政策部交通政策課
係長 中川 宏希 様
皆さま、この度はようこそ金沢へお越し頂きました。歓迎申し上げます。本日はまちづくりにおいて、大変重要な要素の一つであります駐車場につきまして、この分野の第一線で活躍されておられる関係者の皆様に、大変恐縮ではございますが、金沢市の交通政策が少しでもお役に立てればと思い、説明させて頂きたいと思います。どうぞ、宜しくお願い致します。
Ⅰ.まちの特性とまちづくり
各都市の交通事情は、それぞれ都市の特性により、違いがみられますが、金沢の交通まちづくりを説明するにあたり、初めにまちの成り立ちやまちづくりの方針を知ることが大切となりますので、まずは、この点から説明させて頂きます。
⑴歴史的特性
1583年に前田利家が金沢城に入城し、城下町金沢の歴史が始まりました。ここからの藩政期約280年間は、歴代藩主は戦いを避け、学術文化を奨励した時代が続きました。その後、明治以降現在に至るまで、約150年間は戦禍にあわず、また、大きな災害にも見舞われなかったことから、現在、城下町特有の歴史的街路やまちなみを色濃く残す伝統と歴史のある都市となっており、「金沢は歴史に責任を持つべきまち」と言えます。
⑵まちなかの都市構造
上記の通り、旧市街地には、城下町の都市構造が残っており、歩くことが前提の時代につくられた狭隘な道路が多い状況ですから、自動車交通にとっては、地形的に制約があるまちと言えます。
⑶まちづくりの方針
金沢市特有の貴重な歴史・伝統的財産を活かした「保存」と近代化による「開発」の調和をまちづくりの方針としています。保存区域と開発区域をそれぞれ定めて、機能分担を図っています(図1)。
⑷まちの個性と都市構造
まちの個性としては、まず、歴史・伝統・文化に磨きをかけて、厚みを増すことがあげられますが、更に、伝統に創造の営みを加えていく、これを続けていく事を意識してまちづくりを行っています。
又、城下町で非戦災都市である金沢のまちは、歴史的なまちなみに伴う狭隘で複雑な道路、台地の存在による高低差、2つの河川、用水網等の存在により、都市基盤整備が制約された都市構造となっています。そこに、過度に自動車が流入し、朝夕に交通混雑や渋滞が発生する状況がみられていたのです。
Ⅱ.金沢の交通まちづくりの実践
⑴交通を巡る状況
北陸地方は自動車保有台数が全国のトップクラスであり、石川県は平成30年3月末における自家用車の世帯当たり普及台数が、全国平均の1.06台に対して、1.49台とマイカー依存度の高い地域と言えます。
また、交通手段の利用状況においても、平成19年のパーソントリップ調査(図2)では、自動車交通の増加が続いている状況が読み取れます。加えて、交通手段別分担率においても、金沢都市圏全体では、自動車は約7割と非常に高くなっていますので、本市の持続的発展のため、少子高齢化・人口減少社会に対応した都市交通環境の整備と自動車に過度に依存しないライフスタイルへの移行が必要と考えています。
⑵これまでの交通政策
昭和42年の金沢市内路面電車の廃止以降、バス専用レーン導入、観光期や通勤時のパーク&ライドの実施、コミュニティバス「金沢ふらっとバス」の運行開始等を順次実施し、平成15年には、「歩けるまちづくり条例」を制定しました。そして、都市内交通については、まちなかは、歩行者や公共交通を優先することを基本に、自家用車から公共交通への転換による「公共交通の利用促進に関する条例」を平成19年に制定するなどしてきております。
これらに基づきまして、こうした交通まちづくりの方針を体系的に整備し、具体的な施策として取り纏めたのが、「歩行者と公共交通優先のまちづくり」を基本理念として掲げた「新金沢交通戦略(平成20年度~平成27年度)」です。平成27年の北陸新幹線金沢開業に向けたこの戦略における主な取組は以下の通りです。
・歩けるまちづくり協定の締結(まちなかを中心とした歩きやすい環境づくり)
・ 金沢ふらっとバス導入地域の拡大(まちなかの交通空白地域の解消、中心市街地の活性化)
・郊外地域運営バスの導入(生活交通への支援)
・公共レンタサイクル「まちのり」導入
・バス専用レーンの拡充(路線バスの定時性確保)
・ 郊外におけるパーク&ライド用の駐車場確保による乗り継ぎ拠点の整備(公共交通利用促進による市内の渋滞緩和)
・2次交通案内の充実(金沢駅東広場におけるバス発車案内システム・交通コンシェルジュ)等
金沢市としては、これらの交通戦略の実践と同時に、都市の交通インフラの充実の為に、金沢外環状道路の整備を進めています。この内、山側環状道路の開通(平成18年)により、まちなかの通過交通が減少し、渋滞の緩和につながる成果がみられています。
これらの政策を進めている間、金沢市では、高齢化・人口減少社会の進展、環境負荷低減への関心の高まり等の社会情勢の変化が起こっており、又、北陸新幹線金沢開業に伴う来街者・観光客が急増する(平成26年:844万人→平成27年1,006万人)一方で、前記山側環状道路の開通に伴いまちなかの交通量が減少する(平成19年交通量:▲5~10%<対平成17年>)等、まちなかの交通事情にも変化が起こりました。
そこで、これらを踏まえて策定しましたのが「第2次金沢交通戦略」です。
⑶第2次金沢交通戦略(平成29年度~令和4年度)
この戦略では、従来掲げていた「歩行者と公共交通優先のまちづくり」という理念に加えて、「まちなかを核にネットワークでつなぐまちづくり」という理念を新たに盛り込んでいます。目指す交通ネットワークはイメージ図(図3)の通りです。
又、土地利用の面で、まちなかや公共交通の便利な所へ都市機能や居住を誘導する為に、立地適正化計画という位置づけの「金沢市集約都市形成計画」を平成29年に策定しており、交通戦略は、この計画と一体的な取り組みを進めて参ります。
第2次金沢交通戦略では、以下の5つの基本方針を掲げており、
・交通ネットワークの再構築~まちなかと郊外をつなぐ公共交通の強化~
・交通機能の連携強化~円滑な交通結節~
・交通利用環境の向上~より利用しやすい環境づくり~
・歩行者と公共交通の優先~マイカーから公共交通への転換~
・広域・圏域交通による交流の推進~新幹線時代への対応~
この戦略を実施することにより、以下の姿を目指しています。
・過度に車に依存しない交通体系
・安心して楽しく回遊できるまちなか
・誰もが使いやすい交通環境
・都市の競争力・魅力の向上
Ⅲ.駐車場の適正配置を目指した金沢市の取組
駐車場は、生活や都市活動をしていく上で必要不可欠な施設ですが、その場所や需要と供給のバランスについては、まちづくりにとって大変重要な要素だと考えております。そこで駐車場の適正配置を目指した金沢市の取組をご紹介します。
⑴金沢市の駐車場の現状
①駐車場整備地区
駐車場施策を重点的に推進すべき地区として、都心部の673haを駐車場整備地区に位置づけており(平成6年)、まちの特性を考慮し、JR金沢駅を中心として、JR以東地区(歴史的構造を残す旧市街地)479haとJR以西地区(区画整理による新市街地)194haの二つに分け、地区ごとに下記の方針を定めて、駐車場整備を進めています(図4)。
②駐車場整備地区における駐車場整備台数等
駐車場整備台数は、上記の通り1,082台減少しており、その内訳は、時間貸しが▲164台、月極が▲967台、専用が49台です。この駐車場総数の減少は、月極駐車場などの纏まった土地において、北陸新幹線開業以降、ホテル・事務所や共同住宅等の開発が活発化したことによるものです。
駐車場の一か所当たりの収容台数については、時間貸し駐車場に注目しますと、上記の通り平均で66.6台から50.4台と約16台減少しており時間貸し駐車場の小規模化の進行が課題となっています。特に幹線道路から一本、中に入った細街路沿いに小規模な時間貸し駐車場が増えてきています。
③ゾーン別にみる現状と課題
*商業・業務系ゾーンでの課題は、以下の通りです。
・買い物客とクルマの輻輳による買い物環境の悪化
・新たな駐車場立地による商店街の連続性の阻害と商業空間の魅力喪失
・荷捌き車両の路上駐停車による公共交通走行阻害
・幹線道路沿いの駐車場出入りによる歩行環境の阻害
・近代的まちなみ景観形成の阻害
・住居系ゾーンへの商業・業務用駐車場の混入等
*住居系ゾーンでの課題は、以下の通りです
・ 建物除去をともなった駐車場の増加によるまちなみ景観の悪化及び地域コミュニティの希薄化
・住居系ゾーンに用事のない業務用駐車場や来街者用駐車場の混在
・居住者とクルマの輻輳による安全性の低下と生活環境の悪化等
⑵これまでの主な駐車場施策
①これまでの主な駐車場関連施策の流れ
昭和40年 :建築物の駐車施設に関する条例(附置義務条例)の制定
平成 6年 :駐車場整備の基本計画・整備計画の策定(第1次)
平成15年 :歩けるまちづくり条例の制定
平成17年 :まちなか駐車場のあり方基本方針の策定
平成18年 :駐車場適正配置条例の制定
平成19年 :公共交通利用促進条例の制定
平成21年 :駐車場附置義務の一部緩和
平成22年 :駐車場整備の新基本計画の策定
平成23年 :新駐車場整備計画の策定(第2次)
平成28年 :第2次金沢交通戦略の策定
平成29年 :金沢市集約都市形成計画の策定
平成30年 :駐車場整備基本計画・整備計画(第3次)の策定
平成31年 :駐車場附置義務原単位の一部緩和・隔地要件の見直し(4月)
令和元年 :駐車場附置義務緩和対象区域・緩和条件の変更(7月)
駐車場適正配置条例に基づくまちなか駐車場区域及び基準の変更(7月)
②駐車場適正配置条例
平成18年に制定しました金沢市の独自条例であります駐車場適正配置条例をご紹介します。この条例は、まちなかにおける駐車場の適正な配置により、交通渋滞の緩和と歩行者の安全性の向上を図り、住みよい都市環境の形成に寄与することを目的としています。
この条例に基づき「まちなか駐車場区域」や「まちなか駐車場設置基準」を定めた上で、駐車場の新設・変更に届出義務を創設しました。この届出制度は、いたずらな駐車場化の抑制と適正配置の推進や適切な現状把握による施策の展開を目的としており、区域内の自家用車駐車場以外で、駐車ますの面積が50㎡(約4台)以上の駐車場の設置者に対し、届出を義務付けています。この制度では、時間貸し駐車場だけでなく、月極駐車場や不特定多数の人が利用するコンビニエンスストアの駐車場なども届出対象としています。
相談があった場合には、「まちなか駐車場設置基準」に基づく助言や指導を行うことになります。具体的には、まず、駐車場以外の用途への変更を促したりしますが、それが難しい場合は、出入口の場所や安全面での配慮について、助言・指導を致します。
又、このような助言・指導を行うために、「まちなか駐車場相談窓口」を設置し、駐車場新設の相談があった場合に、相談箇所周辺の月極・時間貸し・専用駐車場の現況を提示します。このデータにおいて、相談箇所周辺での駐車場の供給が、既に十分行われていると思われる場合には、このデータを根拠として、駐車場以外の土地利用の検討を依頼したりします。
③まちなかにおける駐車場附置義務の緩和
一定規模以上の建物の新築等を行う場合に、駐車施設の設置と届出を義務付けることで、国の設計基準等に基づいて助言や指導を行っていますが、まちなか駐車場区域では、必要以上の駐車場整備を抑制し、公共交通の利用促進を図るために、公共交通の利便性が高い場所において、施設利用者に対して公共交通の利用促進等を図ることを条件に、駐車場附置義務を緩和しています。
本緩和規定の地区要件、対象区域、公共交通利用促進の取組及び緩和の概要等は、図5の通りです。
北陸新幹線金沢開業以降、この附置義務緩和の相談が急増しており、これまでに17件の建物で、附置義務台数を約480台程度緩和しております。特に公共交通の利用が主となりますホテルでの緩和が多く、バスの一日フリー乗車券の販売などとセットで取組むことで、駐車場の整備抑制と公共交通の利用促進を進めています。
④駐車場案内システム
このシステムは、平成13年から稼働しており、平成29年に路上案内板を廃止した際に、システムリニューアルし、ITを活用した情報提供に移行しています。幹線道路に面した比較的規模の大きな市内の主要駐車場の満空情報が一目で分かるので、まちなかにおいて駐車場を探す迷走車両の減少や分散誘導に役立っています。また、このシステムから得られる駐車場の入出庫情報を活用して、年間を通した駐車場の需給バランスの分析を行っている他、繁忙期に特定の駐車場への集中を避けるために分散誘導対策に関する資料を作成するなどしています。
⑶金沢市駐車場整備に関する基本計画及び
駐車場整備地区における駐車場整備計画(第3次)の概要(平成30年4月)
①第3次計画策定に至る社会的背景の変化
金沢市の駐車場を取り巻く状況は、大きく変化しています。北陸新幹線金沢開業に伴い観光客が増加し、それにより観光バスの来訪が増加するとともに、ホテル・事業所・マンション開発などの土地利用が活発化している一方で、中心市街地では、空き地、空き家等の駐車場化が進み、小規模な時間貸し駐車場が増加しています。
また、土地利用の面では、新たなまちづくり計画として、都市機能や居住の誘導に関する方策を示した「金沢市集約都市形成計画」が平成29年に策定されました。このような状況の変化への対応や新たに策定したまちづくりに関連する計画との整合を図る必要があることから、従来計画を見直し、駐車場整備基本計画・整備計画(第3次)を策定したのです。
②第3次計画の基本方針等
本計画の基本方針等は以下の通りです。
*基本方針:「量的な駐車場整備から、質的な整備への転換」
*目標年次: 令和14年
*目標量 : 平成28年現在の駐車場台数(65,500台)を基本とし、各種施策を推進しながら、
令和14年の推計必要台数(45,000台)に近づけていく
③第3次計画の施策の検討方針
本計画の施策の検討方針は以下の通りです。
*方策1 駐車場台数の総量増加を抑制
・駐車場附置義務原単位の適正化
・隔地要件の適正化
・既存駐車場の効率的な活用
*方策2 小規模駐車場の抑制・集約化
・駐車場の配置適正化
・集約駐車施設・立体駐車場の利用促進
・技術的基準対象駐車場の拡大(駐車場法)
*方策3 都心軸上からの入出庫の抑制
*方策4 まちなかへのマイカー流入抑制
・パーク&ライドの普及・利用促進
・Kパーク(通勤時パーク&ライド)の普及・利用
・バス専用レーン遵守率の向上
*方策5 路上における荷捌き車両の適正化
・荷捌き駐車場・ベイや荷捌き車両停車可能区域の見直し及び利用促進
・集配基地の設置や時間貸し・月極駐車場の共同借り上げによる空間確保
*方策6 都心軸上や駅周辺におけるタクシーや観光バスの乗降の適正化
⑷駐車場基本・整備計画(第3次)に基づく取組
①駐車場附置義務条例の改正
駐車場台数の総量増加を抑制し、既存駐車場の効率的な活用を推進するために実施したものであり、内容は以下の通りです。
*附置義務原単位の見直し(平成31年4月)
駐車場案内システムによって取得した入出庫情報等から得られた用途毎の駐車場の占有率を用いて、算出したもの。
*隔地要件の見直し(平成31年4月)
原則として出入りを行わないこととしている都心軸上での附置義務駐車場等について、より柔軟に隔地を選択できるよう要件を見直したもの。
*附置義務緩和可能区域の拡大(令和元年7月)
集約都市形成計画で公共交通の利便性の高い区域とされている金沢駅周辺において、駅から半径約500mの範囲を追加しました。
又、観光地として有名なひがし茶屋街近辺のバス停2か所については、新幹線開業後、バス停利用者と周辺の歩行者が増加しており、駐車場からの車の出入り時における歩行者との錯綜が懸念される為、バス停から約200mの範囲を追加しました(図6)。
これらの附置義務緩和により、まちなかの効率的な土地利用と駐車場台数の総量抑制を図るとともに、公共交通の利用促進を図ることにより、交通と土地利用が連携した交通まちづくりを進めて参ります。
②適正配置条例関連の取組強化(令和元年7月)
*まちなか駐車場区域の拡大
前述の通り、JR以西地区における駐車場整備台数が、平成21年(23,618台)から平成28年(24,225台)にかけて607台増加していることから、駅西の商業地域を対象にまちなか駐車場区域を拡大し、届出を義務付けることとして、駐車場の適正配置を推進しています(図7)。
*まちなか駐車場設置基準の強化
主な追加・変更点は以下の通りです。
・平面の時間貸し駐車場としての土地利用は、一時的な利用に努めること
・ 前面道路の幅員が6m未満の場合、時間貸し駐車場の設置を控えること
(駐車場法における技術的基準を準用)
・ 原則として都心軸からの出入りを行わない地区を拡大し、金沢駅周辺地区を追加
(出入口は裏通りへ)
③その他の取組(まちづくりの関連部局との連携による取組)
*まちづくり協定による取組
地区の住民が中心となって、地区のルールをつくり「まちづくり計画」として、市長と「まちづくり協定」を締結する制度がありますが、このルール作りの中で、土地利用の制限の項目に「路外駐車場のうち、料金を徴収するもの(コインパーキング等)を設置しない」などの基準を設け、駐車場の設置を抑制するように定めた地区が最近増えてきており、このルールを盛り込んだ協定は、現在10地区で締結されています。
住民が自分達のまちを守っていく中で、この取組により、住宅地の駐車場化に歯止めをかけています。
*重要伝統的建造物群保存地区における駐車場借上費補助
「東山ひがし」と「主計町」という2か所の茶屋街では、地区内に駐車場が新設されると、まちなみに大きな影響が出てしまうことから、住民が地区外に自分の駐車場を借りる場合に補助を出す制度を設けることにより、地区内の駐車場設置を抑制する取組を行っています。
⑸今後の駐車場適正配置に向けて
①計画的な駐車場コントロールの課題
駐車場は生活や都市活動に不可欠な施設ですが、駐車場そのものは都市活力を生むものではありません。需要と供給とのバランスを確保しなければなりませんし、車を賢く使う「モビリティマネジメント」の考え方を浸透させていくことも重要だと考えております。
又、駐車場は、ほとんどが民間施設であるため、行政主導で進めにくいという性格があり、「とりあえず駐車場」という選択をされてしまうことによる暫定的な土地利用が多くなっている状況があります。駐車場をつくる個人の自由な権利は制限できませんが、適正配置条例による助言と指導や、まちづくり条例等によるルールづくりで関連部局と連携していくなど、地道な取組の継続が必要です。
特に、北陸新幹線金沢開業以降、ホテル・事務所や共同住宅等の開発が活発化しており、それぞれの建物に駐車場を設けますと、駐車場が増え続ける恐れがありますので、未来のまちを見据えながら、附置義務緩和や隔地制度による既存駐車場の効率的活用等の手段で、この状況に柔軟に対応していきたいと考えています。
②駐車場政策の必要性と可能性
近年、平面の時間貸し駐車場が増えていますが、この状況をプラスに捉えるとするならば、建物補償が不要なことから、都市再生の種地としての可能性があると言えます。現在、市内では、前述の通りホテル等の建設が進んでいますが、その多くは以前、駐車場だった土地です。このようなことから、低未利用地の利活用や土地利用の転換を誘導していく事が重要となります。
又、駐車場は、まちづくりに関連するほぼ全ての政策と関連していると言えますので、市庁舎では、まちづくり関係部局を同一フロアに配置した「まちづくりフロア」を設けており、横の連携を強化することにより、まちづくりを進めて参ります。
③まとめ(「歩行者と公共交通優先のまちづくり」の実現に向けて)
高齢化・人口減少社会を迎え、過度なマイカー依存のライフスタイルからの脱却を実現していくためにも、今後の駐車場の在り方を見極めていく必要があると考えます。本市の交通によるまちづくりについての基本方針であります「歩行者と公共交通優先のまちづくり」の実現に向けて、点在する平面駐車場の集約化・立体化による適正配置や安全な歩行環境を確保するためのフリンジ駐車場の整備などを通じて、行政と民間が一緒になって、その地区に相応しい土地利用を考えていきたいと思っています。又、合わせて、観光バス・タクシー・荷捌き車両の駐停車対策、パーク&ライド駐車場の整備や利用促進によるまちなかへのマイカー流入抑制なども進めて参ります。
このように様々な駐車場関連施策、交通政策を進めるとともに、金沢の個性を活かしたまちづくりと連携することにより、市全体で、金沢らしいまちづくりに取組んでいきたいと考えています。
これで、説明を終わります。長時間のご清聴有難うございました。
Ⅳ.質疑応答
主な質疑応答は以下の通りです。
回答者:金沢市都市政策局交通政策部交通政策課
課長補佐 土田 昌伯 様
係長 中川 宏希 様
(質問)
駐車場適正配置条例に関してですが、例えば、まちなかに立体駐車場を建築しようという時に、「まちなか駐車場相談窓口」で許可を得ないと建築確認は申請できないのでしょうか。
(回答)
この窓口は、“許可”を行う機能・権限を持っておらず、あくまでも“相談窓口”という位置付けです。そこで、金沢市役所への確認申請の場合、附置義務で駐車場の届出が必要な際には、あくまで行政指導という位置付けの中で、その届出をしないと確認申請を受理しないという方法により建築指導課と横の繋がりを持っています。
市としては、まちなかでの駐車場の新設や変更の場合に、予め市への届出・相談が必要であることについて、周知徹底を図っています。
(質問)
令和元年7月の適正配置条例関連の取組強化の一環として「まちなか駐車場設置基準」の強化が行われており、その中に「前面道路の幅員が6m未満の場合、時間貸し駐車場の設置を控えること」とありますが、どのように実効性を持たせていますか。
(回答)
駐車場法では、路外駐車場で自動車の駐車の用に供する部分の面積が500㎡以上であるものの構造及び設備は、建築基準法その他の法令の規定の適用がある場合においてはそれらの法令の規定によるほか、政令(駐車場法施行令)で定める技術的基準によらなければならないとされており、前面道路の幅員が6m以上必要ですが、金沢市においては、500㎡に満たない、もっと小規模な駐車場(駐車ますの面積が50㎡以上)を設ける場合にも、安全を確保し、渋滞を招かない為に、前面道路の幅員を6m以上として欲しいという考えで助言・指導をしています。
「前面道路の幅員が6m未満の場合、時間貸し駐車場の設置を控えること」という表現の通り、強制力は無いものの、まちづくりを考えていく上での安全確保の必要性から、駐車場法における技術的基準を準用し、このようなお願いをしています。
(質問)
駐車場台数の総量増加を抑制する方針の下、点在する平面駐車場の集約化・立体化による適正配置が方策として掲げられていますが、この方策に沿った形での民間による共同化や不動産の有効活用などを促すようなインセンティブは、市としては、どうなっているのでしょうか。
(回答)
市では、この方策を進めて、魅力的なまちづくりを進めていきたいと考えており、国土交通省が策定した「まちづくりと連携した駐車場施策ガイドライン」でも、駐車場の再配置に資する仕組みの紹介がなされるなどしていますが、現場では、土地所有者が、リスクが少なく比較的安定的な収益が期待できる平面駐車場を選好していることや、権利関係の調整が難しい事などから、駐車場の集約に賛成して頂ける地区が無いというのが現状です。又、都市計画課が、まちなかでモデル的に集約駐車場に取組んでいる地区がありますが、此処もなかなか進んでいません。
現在、駐車場集約化の推進の検討を進めている中で、インセンティブの必要性は感じていますが、民間駐車場に対する助成については、国でもそれ程大きな補助制度が無いこともあり、市単独でも今のところ大きな助成までは考えにくいという状況です。
(質問)
駐車場の集約化に関して、インセンティブとしての補助金は今のところ難しいとのお話ですが、土地・建物の保有や取得に関する税金や容積率等の手段を活用して、インセンティブとしたり、ペナルティとすることにより、集約化を進めるということは出来ないのでしょうか。
(回答)
非常に参考になるご意見を有難うございます。今のご意見も含めて、今後の方策を検討していきたいと思います。
(質問)
「新金沢交通戦略」の主な取組の一つとして、「公共レンタサイクル導入」のお話がありましたが、カーシェアリングは、どのような扱いになっていますか。
(回答)
金沢市では、金沢駅周辺を中心に、民間事業者によるカーシェアリングの普及が進んでいます。
政策面では、駐車場附置義務緩和の条件の一つに公共交通利用促進の取組がありますが、その中の一つとして、カーシェアリングの導入を推進しています。
(質問)
観光バスの来訪増加に伴い、観光バスの停車や乗降による交通支障が見られることから、乗降の適正化が必要とのことですが、観光バス用のバスターミナルの整備状況や整備計画はどうなっていますか。
(回答)
観光バスの乗降については、近年、市内、特に都心軸沿いにホテルが急増していることもあり、ホテル正面道路への停車による乗降で、渋滞等交通支障が発生していることから、金沢市ではホテルやバスの業界団体等に対して、都心軸沿いでの乗降は行わず、既存の観光バス用駐車場を利用し、乗客にはそこから徒歩で移動して頂きたいと働き掛けています。その結果として、一定の改善は見られるものの、まだまだ徹底されていない状況があります。
そこで、今年度は、ホテル正面道路に停車する観光バスが多い地区につきまして、観光バスの臨時乗降場を設置する実験を行っていますが、地元からは様々な意見が出ています。
又、バスターミナルについては、その必要性を感じており、適地・費用等の検討は行っていますが、なかなか進んでいない状況です。
(質問)
駐車場整備基本計画・整備計画(第3次)における駐車場台数の総量抑制策についての質問です。目標量として、「平成28年現在の駐車場台数(65,500台)を基本とし、各種施策を推進しながら、令和14年の推計必要台数(45,000台)に近づけていく」とされており、総量抑制策として、本日、様々な方策をご説明頂きましたが、その実効性も含め、どのように総量抑制を実現していくのでしょうか。
(回答)
現存する駐車場は、殆どが民間の経営によるものですから、行政の施策で強制的に減らすような事は、勿論出来ません。そこで、本計画における目標量をアナウンスすることにより、「現況台数が、将来の推計必要台数を十分に上回っており、将来の駐車場需要には対応可能と考えられることから、今後は、駐車場台数を増やす必要はなく、総量を抑制していきます。」という考え方を周知・浸透させたいと考えております。そして、その考え方に対する民間の理解を得ながら、本日、ご説明した各種方策に取組むことにより、効果的に総量抑制を進めていければと考えております。
(質問)
駐車場の需給バランスが崩れると、渋滞や違法路上駐車が発生する恐れがあると思いますが、現状について教えて頂きたい。
(回答)
前述した駐車場案内システムを活用して、比較的規模の大きな市内の主要駐車場の満空情報を把握しながら、駐車目的車両の分散誘導と、交通の円滑化を図っていますが、利便性の関係から特定の駐車場に集中し、渋滞が発生してしまうという状況があり、駐車場の管理者と協力して対応していますが、そこは課題となっています。
以上
文責 事務局 永田